乗客が激減しても強気の路線拡大を続ける航空会社がある。日本で初めてLCC(格安航空会社)として就航したピーチだ。2020年度の旅客数は前年比71%減ったが、同年から14の国内路線を開設した。その狙いはどこにあるのか。航空ジャーナリストの北島幸司さんが取材した――。
成田空港で出発準備中のピーチ機
筆者撮影
成田空港で出発準備中のピーチ機

2020年1月以降で14路線を新規開設

ANAホールディングス(ANAHD)傘下のピーチアビエーション(以下ピーチ)は、LCCとして10年前に就航を開始したエアラインだ。コロナ禍で乗客が激減する中、航空会社はこぞって大赤字を出し、同社も例外ではなかった。

しかし、ピーチだけはこの逆風の中でも強気だ。2012年から2019年末までの8年間、22路線を開設した。新型コロナの感染が広がった2020年からも路線拡大を続け、新たに14の路線を開いた(図表1)。

路線別輸送実績
ピーチの2020年度安全報告書を基に筆者作成

この間、路線開設を行ったのは日系エアラインの中では同社だけだ。例えば、JAL系のLCCであるジェットスタージャパンはコロナ禍以降に新規路線の開設はなかった。それどころか2020年の10月末のスケジュールから6路線の運休で絞り込みを行っている。

航空会社にとって路線はまさに「資産」だ。収益を生み出す金の卵と言っていい。一方で、それに応じて航空機を保有し人材を確保することになり、コロナ禍のようなイベントリスクが発生した時は重たい負債に転じる恐れがある。

実際に、航空会社の規模を示す輸送力を見てみると、2020年の有償旅客キロベースでピーチの24億RPKは2019年比最大下落率-74%を記録した。同規模のエアラインであるジェットスタージャパンの20億RPKで-52%、スカイマークの31億RPKで-61%の数字と比較して3社の中で最大の落ち込みを記録した。

業績では、2021年3月期決算での最終赤字は295億円になり、ジェットスタージャパン206億円(2021年6月決算)、スカイマーク163億円と比べ3社の中で一番赤字額が大きい。

この点からも、路線拡大は航空会社にとって「諸刃の剣」だということが分かる。

だが、それでもピーチはなぜ、コロナ禍でも強気の路線拡大を続けているのか――。本稿ではピーチの担当者へのインタビューを通じて、その謎を紐解いていきたい。