長い老後の人生設計も重要

典型的なオーナーの人生を、時間とともに少し考えてみよう。自社の采配を振ってきた社長は、どこかの時点で社長の椅子を後継者に渡し、会長職に就く。会長職として後継者を陰ながら支援していくことになる。同時にオーナーは、税理士とも協議しながら自社株の移転について少しずつ実施していくことになる。

島田直行『社長、その事業承継のプランでは、会社がつぶれます』(プレジデント社)

人は年齢とともに、次第に足腰が弱くなり、病気も増えてくる。すると、「誰がオーナー夫婦の面倒を見るか」という介護の問題が生じてくる。最近は、後継者と同居していないオーナーが圧倒的に多い。後継者夫婦にとって、事業をしながら両親の介護を担うのは、相当の負担だ。娘はみな結婚しており、地元には誰もいないというオーナーも少なくない。こうなってくると、「自分の老後をどこで過ごすか」から考える必要も出てくる。

「夫婦でいつか施設に入るよ」と語る方もいるが、「どこの施設に入る予定ですか」とまじめに質問すると、たいてい言葉に詰まる。千差万別の施設のなかで、自分に合った施設を見つけることは簡単でない。しかも、オーナーのなかには、自社株を保持したまま、認知症にかかって、判断能力を喪失してしまう人もいる。

こうなると、株主総会すら開けず、事業に支障が出る。金融機関から借入をするにしても、判断能力がないため、連帯保証人にもなれない。こういった認知症のリスクをセミナーで語ると、「想定していなかった」と愕然とされる方も少なくない。自己の死の前に、すでに壁はある。

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