県知事候補者たちが「オール静岡」を叫ぶ違和感
川勝平太前知事の突然の辞意表明を受けて急遽行われた静岡県知事選。5月26日に投開票が行われ、立憲民主党と国民民主党が推薦した元浜松市長の鈴木康友氏が、自由民主党が推薦した元静岡県副知事の大村慎一氏らを下して、初当選を果たした。
だが、この選挙、私個人としておもしろかったのは、どの陣営もやたらに「オール静岡」を強調していたことだった。
まず大村氏が、4月12日の記者会見で、立候補の理由について「混乱と分断、対立がある県政の現状に危機感を持ち、『オール静岡』で課題を解決して、ふるさとの元気で明るい未来をつくっていきたい」と述べた。
すると、鈴木氏も3日後、浜松の財界関係者と一緒に行った会見で、こう語った。「混迷している県政をしっかりと立て直し、静岡県のすばらしい資源を活用して、『オール静岡』で、静岡県の発展に全力を尽くす」。
たかだか日本を47に分割した一つの自治体の話なのに、なぜこうも「オール」を強調するのだろうか。
前知事の「御殿場はコシヒカリ」発言の意味
そういえば、川勝前知事の県政では、県内はまとまっていないかも、と思わされる発言がよく飛び出した。その典型が、2021年10月23日、参院静岡選挙区補欠選挙で、川勝氏が浜松市出身の候補を応援した際の演説だった。そのとき、元御殿場市長である対立候補について、次のように語ったのだった。
「あちら(御殿場市)はコシヒカリしかない。ただ飯だけ食って、それで農業だと思っている。こちらにはウナギがある。シラスもある。三ケ日みかんもある。肉もある。野菜もある。玉ねぎもある。なんでもある。もちろんギョーザもある」
もちろん、御殿場市も静岡県の一部であって、県知事がこんなふうに揶揄するのはどんなものか、と思うが、それは本題ではない。川勝前知事の発言が同時に示唆するのは、静岡県は47都道府県のなかでも、地域ごとの対立が激しいという事実である。
静岡県は東西に長く、155キロにもおよぶ。そして、東部は首都圏の経済的影響が強まっているに対し、西部は中京圏の経済的影響が大きい。だから、今回の選挙でも、東部の有権者からは「元浜松市長が知事になったら、県政が浜松びいきになるのではないか」などという懸念の声が聞かれた。