つまるところ、社長として決定できる範囲は、自社株の保有率によって決まってくる。オーナー企業の場合、社長が実質的に単独であらゆることを決めることができるからこそ、大企業にはないスピード感を持った経営を展開することができる。

社長の「そうだ、あれやってみよう」という感覚は、まさにオーナー企業の強さを表している。これが、何を決めるにしても、他の株主との調整が必要となれば、スピード感などあったものではない。

小株主でも経営に介入される可能性がある

社長のなかには「うちは過半数の株式を確保しているから大丈夫。しかも株式の譲渡には、取締役会の承認も必要だから」と安穏たる思いの人も見受けられるが、自社株の怖さをまったく理解していない。

たとえば、3%の株式を持っていれば、会社の会計帳簿を閲覧することができる。これでは経営に関与しない株主に会計情報が筒抜けになってしまう。一定の場合に閲覧を拒絶することができるものの、その理由を会社にて説明しなければならない。

「会計情報を他人に知られたら困るので見せたくない」というのは理由にならない。たまたま手に入れたわずかな自社株であっても、法律とうまく組み合わせれば、社長の首元にナイフを突きつけることも可能なのである。

このような「予定しない第三者」が経営に介入することを防止するために、「株式の譲渡について取締役会などの承認が必要」と定款で定めている会社は多い。いわゆる「譲渡制限付株式」と呼ばれるものだ。たしかに譲渡制限すれば、「予定しない第三者」の介入をある程度防止することができる。ただし、これも絶対ではない。

企業構造、会社階層のコンセプトイメージ
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たとえば、ある株主が亡くなり相続が発生した場合、譲渡制限は機能しない。つまり、自社株を相続した者であれば、会社の意向と関係なく、新たな株主として権利を行使することができる。

実際、ある会社では、相続で新たに株主になった者が「これまで株主総会の開催案内を見たことがない。社長の経営方針は違法だ」と批判してきたことがあった。

自社株の買い取りで多額のキャッシュが出ていく

また、譲渡制限にはもうひとつ、社長が見落としがちな点がある。それは株主の譲渡承認請求を拒否した後の対応だ。会社として譲渡承認請求を拒否すれば、それで終わりという単純なものではない。

あるサービス業の会社では、親族のひとりが自社株を2割くらい保有していた。経営に対する方針の相違から感情的な対立になり、その親族は自社株を第三者に売却することになった。売却の相手はライバル会社の関係者であった。会社は、取締役会で譲渡承認請求を拒否したが、「これで安心」では終わらなかった。

譲渡承認請求を拒否された者は、会社に対して自社株の買い取りを求めることができる。買い取りを求められた会社は、譲渡不承認を通知した日から40日以内に一定の金額を供託のうえ、会社が買い取る旨を通知しなければならない。そうしないと、譲渡を承認したことになってしまう。