アフターコロナはセンスの価値が高まる

どんな職業でも、初心者はスキルの習得から入ります。新入社員に求められるのは、まず仕事を覚えること。「自分はセンス抜群なんで、スキルは学ばなくても大丈夫です」といったところで、誰も相手にしません。

それよりも、着実にスキルを高めていくほうが評価は高い。初心者の段階では、スキルの価値が高いということ。「あれができます、これができます」というレベルです。

入社から5年10年と働き、一人前のスキルを身につけたあとは、だんだんセンスに価値が置かれるようになります。業務をちゃんとこなせるのは当たり前。そのうえでどれだけ高い成果を出せるのか。ここはセンスの問題になります。

さらに一流、超一流となるにしたがって、能力のうちでセンスが占める割合は圧倒的に大きくなります。どんな世界でも、超一流のプロたちにスキルの差はありません。多少の得意、不得意はあるにしても、必要なスキルはすべて身につけている。プロの野球選手やサッカー選手を見ればわかるでしょう。

経営者による戦略的な意思決定はスキルだけではどうにもならない仕事の最たるものです。どれだけ『社長の教科書』みたいな本を読み込んでも、それだけでは社長になれません。

しかも、経営センスは履歴書に書けない。労働市場に、経営者のオープンマーケットがないのはそのためです。「プロ経営者」と呼ばれる人たちは、みんな顔と名前を知られ、相対取引で会社を移ります。

経営者でなくても、ある分野で超一流と認められた人たちは、みんな名指しで引き抜かれます。裏返せば、オープンな労働市場で求められているのは、履歴書に記載できるスキルだということです。働き方改革で議論された「同一労働同一賃金」というのも、スキルを問題にしています。

楠木 建、杉浦 泰『逆・タイムマシン経営論』(日経BP)

一般論でいえば、スキルに支払われる報酬は少なく、センスに支払われる報酬は多い。年収が数千万円、数億円という人たちは、センスでそれだけ稼いでいるわけです。

そこで問題となるのは、センスの評価。「あの人はセンスがいい」と評価できるのは、その人よりもセンスが優れている人だけです。むちゃくちゃセンスがわるい人に「あなたってセンスがいいですね」と褒められたときほど、不安になることはありません(笑)。

前編と合わせて考えると、次のようにいえます。

アフターコロナの世界では、多くの人が不要と思いがちな能力の価値がむしろ高まる。同時に、みんなが身につけたがるスキルはコモディティ化し、センスがますますものをいうようになる。センスには高い報酬が支払われ、そのセンスを評価できるのはセンスがある人だけに限られる。

この傾向は現在も当てはまりますが、アフターコロナではさらに加速すると私は見ています。

撮影=西田香織
窓側に足が向くように写真の椅子に座りながら日々の読書をすることが多いという。取材時には愛犬の「お蝶さん」の姿も
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