腑に落ちないところはあったものの「わかりました」と告げ、準備を始める。編集部を出ようとすると、上司が「佐藤! おまえ女性ファッション詳しかったよな?」と言うと、佐藤さんが「もちろん! 毎号『AneCan』をチェックしていますから」と答えて、編集部で笑いが起こった。
「あの雑誌休刊してるだろ!(笑)」
同僚たちの楽しそうな笑い声に押し出されるように編集部を後にした。
世界共通の笑いの原則とは
場所は東京・新宿の小さな貸会議室。インプロ講師の渡辺龍太さんは、バラエティー番組の構成を手がける放送作家で、さらにアメリカに留学してハリウッド流の即興演劇を学んでいた。インプロは有名なハリウッド俳優のみならず、Googleなど世界トップ企業のグローバルエリートも受講しているらしい。
「今日は2つのことを皆さんに覚えていただきます。まずは、笑いとは才能ではなく技術だということ。次に、笑いを取る能力を鍛える方法があること。プロのお笑い芸人になるには才能が必要ですが、日常の笑いを生み出すうえでは技術を知っていれば十分です」
参考例として紹介されたのは、タレントの中居正広さんの笑いの取り方。
「中居さんは芸人じゃないのに人を笑わせるのがうまい。私が考えるに、中居さんはお笑いのプロのトークフォームをうまく再利用しています」
パワーポイントで図解を見せながら説明を続ける。中居さんはある番組で共演したジャニーズの後輩(当時)で彫りの深い顔を持つ錦戸亮さんを「君は、足の裏じゃないよね?」といじって笑いを取ったという。これは中居さんが歌番組で共演する、とんねるずの石橋貴明さんがしばしば人の見た目を「君は○○じゃないよね?」と言って笑いを取るトークフォームを再利用したそうだ。
「このフォームの何が人を笑わせるのか? それは『君は○○じゃないよね?』というごく普通の文の『○○』に、その場に合わない予想外の言葉が入るからです。そしてそれを、さも当たり前のことのように言う(行う)ことが大切です。これは世界共通の笑いの原則です。たとえば電車で向かいの席にカツラがズレている人を見たら笑ってしまう。これは皆が電車に乗っている日常風景の中で、ある人の頭にだけ異常なことが起きているからです。一方、ハロウィーンのパーティーで金髪のカツラを被っても笑いは起きない。なぜなら、ハロウィーンでは異常なことをするのが普通であるので、驚きがなくなってしまうからです」
予想外で異常なこと。狩野英孝さんのギャグ「ラーメン、つけ麺、僕イケメン!」でクスッと笑ってしまうのも、最後も麺がくるかと思えば、突然別のものがきて、しかもそれを当たり前のように言うから、笑ってしまう構造だということだ。