意気消沈する中、発想力を鍛える訓練③はさらに手強い。やはり2人1組になって、相手が話す状況を受け入れたうえで自分なりの面白い返しをするトレーニングだ。たとえば、「社長、大変です! ネズミが大発生しました」と言われたら、「それはちょうどいい。猫を飼い始めたところなんだよ」と「Yes,and」で言い返す。渡辺先生は僕と参加者の1人を指名する。皆の前でやることになった。

相手「お坊さんだったんですよね?」
自分「そうなんですよ!……」

いきなり言葉が詰まってしまった。相手の言うシチュエーションが唐突で、言葉が思い浮かばない。それでもなんとかひねり出した。

自分「四国遍路に行ってお坊さんになってみたいなと思ったんですよ」
相手「お坊さんになると100日くらい坐禅するって本当ですか?」
自分「そうじゃないんですよ!……」

笑いが起こった。しかし僕は赤面である。講師が解説する。

即興で人を笑わせる

「今のも笑いでいえば大成功(笑)。結城さんがルールから外れた言葉を言ったことで皆さん笑ってしまったんです。しかし、返しは否定でしたね。『But』や否定で繋げるのは、積み上げてきた会話を反転する新たなロジックが必要になる。だから結城さんも言った後に言葉が詰まってしまいました。『Yes,and』なら、相手の出してきたアイデアにプラスして自分が何かを加えるだけ。そうすると省エネでアイデアが生まれ、即興で人を笑わせることもできます」

そう言われて今日、編集部で佐藤さんが笑いを取っていたことを思い出した。「もちろん!」と返していたが、あれも「Yes,and」だ。

一方、僕は普段から逆接の接続詞や否定的コミュニケーションを多く使っていることを改めて実感した。逆接の接続詞や否定から入ると、会話を途切れさせることになり、話が盛り上がらない。僕がいると場が白けてしまう根本の要因は「But」から入ってしまう癖だと気づいた。それを直すのが「Yes,and」なのだ。

3つの訓練を通じて、普段から自分の準備した土俵上でしか会話をしていないことが身にしみてわかった。インプロを練習すると、笑いを取れるだけではなくて、仕事の場でも相手の土俵に乗ったうえでうまい返しができるような「即興力」がつきそうだ。