記者から学んだ「聞き上手のメモのコツ」

「聞く」ことについて、もう少し考えてみたい。

世の中には「あの人には何でも話せる」という「聞き上手」な人もいれば、一方的に自分の言いたいことだけを話して相手の話にはまったく聞く耳を持たない「聞き下手」な人もいる。

私の周囲を見わたして、「この人は聞き上手だな」と思うのは、新聞や雑誌の記者のみなさんである。記者の人たちは「聞き上手だから記者になった」のか、あるいは「記者という仕事に就いて聞き上手になった」のかは定かではないが、総じてみな「聞き上手」だ。

相手から真相を聞き出し、それを記事にしなければ食っていけないのだから、記者が「聞き上手」であるのは、ある意味当然と言えば当然である。しかし、彼らがすごいのは、相手の話を聞きながら、同時に「メモ」も取っていることである。最近はICレコーダーなる便利な小型録音機器があるため、メモを取りながら取材している人の数も大分減ったが、私が現役の頃の記者と言えば、みなノートとペンを手にしていたものだ。

話を聞きながらメモを取るにはどうすればいいか

「人の話を聞きながらよくメモが取れるな」と感心したので、ある日、仲のよかった記者にその「コツ」を聞いてみたことがあった。

その記者は「人の話を聞きながらメモするコツは大きく3つのポイントがあります」と私に教えてくれた。

(1)聞きたいこと(質問)をあらかじめ準備しておく

自分の考えをまとめ、相手に何を聞きたいのか、どんな話を聞き出したいのか、そのポイントとなる事柄(質問)を事前にいくつか準備しておく。あまりたくさん質問を用意すると、相手の話も散漫になってしまうので要点を絞ることが大切。

(2)メモを書くことばかりに気を取られない

相手の真意を汲み取るには、話す内容だけでなく、その時の「表情」や「間」といったものにも注意を払う必要がある。メモ書きばかりに集中せず、「相手を見る」「メモを取る」のバランスを半々くらいにするのが理想。相手が「○○なんですよ」と言ったら、「なるほど、○○なわけですねー」と同じことを復唱すると、メモを取る間ができる。

(3)相手の話をすべてメモする必要はない

自分の本当に聞きたいことだけをメモしていくことが重要。すべてをメモしようとすると無駄が増える。必要な答えを瞬間的に取捨選択し、メモしていく。これは訓練を重ねることで、誰でもできるようになる。

3つのポイントを聞くと「何だ、そんなことか」と思う人もいるかもしれないが、授業中に先生が黒板に書いたことをメモするのと異なり、実際に相手の話を聞きながらメモを取るのはとても難しいものだ。

私が記者から聞いたことを参考に、あなたもぜひ「メモ上手は聞き上手」な人になってほしい。

野村克也(のむら・かつや)
野球解説者
1935年、京都府生まれ。京都府立峰山高校卒業。54年、テスト生として南海ホークス(現福岡ソフトバンクホークス)に入団。70年には南海ホークスの選手兼任監督に就任し、73年にパ・リーグ優勝を果たす。78年、選手としてロッテオリオンズ(現・千葉ロッテマリーンズ)に移籍。79年、西武ライオンズに移籍、翌80年に45歳で現役引退。90年、ヤクルトスワローズの監督に就任。98年までの在任期間中に4回のリーグ優勝(日本シリーズ優勝3回)を果たす。99年~2001年、阪神タイガース監督。06年~09年、東北楽天ゴールデンイーグルス監督。
(写真=iStock.com)
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