仕事で成長する人は、どこが違うのか。野球評論家の野村克也氏は「監督時代、自分やコーチの話を聞いてしっかりメモをとる選手は大成した。メモを読み返してしっかり消化し、その蓄積が考える力を養ってくれる」と説く。現役時代から自身が徹底したメモの活用法とは――。

※本稿は、野村克也『野村メモ』(日本実業出版社)を再編集したものです。

「ID野球」はメモ魔の選手たちと築いた

南海ホークスで選手兼任で監督を務めて以来、私はヤクルトスワローズ、阪神タイガース、シダックス(社会人野球)、東北楽天ゴールデンイーグルスの計5球団で監督としてチームの指揮を執った。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/triloks)

振り返れば、ミーティング中などにしっかりとメモを取るタイプは、大成していった選手が多いように感じる(まあ中には、阪神時代の新庄剛志のような天才肌の特異なタイプもいるが……)。

とくに、ヤクルト時代はミーティングにおいてメモを取る選手が多かった。古田敦也や宮本慎也のような真面目なタイプは、「メモ魔」と呼んでもいいくらいにメモを取っていた。その他にも、「ブンブン丸」の愛称で親しまれていた池山隆寛や長くチームの4番を務めていた広澤克実も、私やコーチの発する一言一言をしっかりとメモしていた。

私の代名詞ともなっている「ID野球」は、このヤクルト時代に生まれた言葉である。しかし、「ID野球」は私ひとりの力で築き上げたものではない。私やコーチが発した情報を選手たちがメモし、それをプレーの中で生かしてくれたからこそ、「ID野球」という言葉がマスメディアを通じて世に広まり、私がヤクルトで監督を務めた9シーズン(1990~1998年)で4度のリーグ制覇、そして3度の日本一という輝かしい成績を収められたのだと思っている。

メモを取らない選手は大成しなかった

メモをしっかりと取る選手が大成していったのに対し、メモを取らないタイプの選手は試合中のミスも多く、一軍に定着できずにすぐに二軍落ちになったり、あるいは人知れず引退していった。

いくら身体能力が高くても、それだけでは食べていけないのが「プロ」の世界である。投手であれば、投げる球が150キロを超えるような豪速球でも、コントロールがなければそれは宝の持ち腐れに終わる。また、打者であれば、「当たればホームラン」というようなパワーヒッターであっても、プロの投手はそうそう甘い球を投げてはくれないから、変化球にも対応できるような技術と、「次はどの球種がどのコースに来るか?」といった「先を読む力」が必要となる。

ミーティングで聞いた話をメモし、それを読み返しながら自分の中でしっかりと消化する。そういった情報の蓄積が結果としてミスを減らすことになり、その人の「考える力」を養ってくれるのである。