皆さんは、誰かと食事に行った時、その人がモリモリとおいしそうにご飯を食べている姿を見て、ついつい一緒になって食べすぎたという経験はありませんか?

『「つながり」と健康格差』(村山 洋史著・ポプラ社刊)

人は誰かがとっている行動をどうしても真似してしまうのです。これは脳科学でも証明されており、ミラーニューロンという脳内の神経細胞が関与しています。この細胞は、自分が何かの行動をした時だけでなく、自分が体験していなくても他者の行動を見ただけで活性化し、脳内で再現することが分かっています。つまり、自分がその行動をとっていなくても、脳内ではその行動をした時と同じように細胞が活性化しているのです。そのせいで、肥満の友達が高カロリーな料理を食べているのを見ると、将来的に自分にも同じような行動が表れやすくなります。

もう1つの理由は、肥満の友達がいることで、肥満に対する認識や態度が寛容に変化することが考えられます。これは「規範の広がり」と呼ばれるものです。

フラミンガム心臓研究はアメリカでの研究です。ご存じのようにアメリカでは肥満者は非常に多く、米国疾病予防管理センターは、成人の36.5%が肥満に該当すると報告しています。こういった社会では、肥満が自然なものとして受け入れられています。まして、身近に肥満の友達がいれば、肥満というものを許容しやすくなります。

また、肥満の友達がたくさん食べている状況を見ていると、「この人も食べているし、別に同じように食べても問題ないんじゃないか」、全然運動に関心がない様子を見ていると、「運動なんて別にしなくてもいいんじゃないか」といったように、肥満につながる行動に対してハードルが低くなってしまうのです。

「伝線」する悪い習慣、良い習慣

この「伝染」は、喫煙でも飲酒でも観察されています。肥満と同じく、「行動の模倣」と「規範の広がり」が関係しそうなことは想像に難くありません。親子とも喫煙者だったり、親子とも酒飲みといったケースを目にすることがありますが、これは親子という緊密なつながりを介して、行動が模倣され、喫煙や飲酒へのハードルが低くなっていった結果とも考えられます。

悪い習慣だけが伝染するわけではありません。笑いや幸福感といったポジティブな側面も伝染します。「相手が笑っていると理由なく思わず一緒に笑ってしまった」「幸せそうな表情の人を見ているとこっちまで幸せな気持ちになった」などといった経験はありませんか?

これにもミラーニューロンが関係しています。人が楽しく幸せそうな様子を見ていると、さも自分も同じように楽しく幸せな体験をしているような状態になれるのです。

また、「相手の顔色を読む」という言葉がありますが、顔の表情だけでなく、声のトーンなどによって、私たちは相手の感情を察することができます。また、その背景にある相手の体験に思いを巡らすこともできます。人が楽しそうにしている様子を見ると、状況を察し、それにうまく同調できるのです。

自分の不健康や不調を他人のせいにしてしまってはいけませんが、ここまでお話ししてきたように、健康・不健康は、自分自身の行動や意志のみで決まるわけではありません。周囲の人々の振る舞いや考え方に知らず知らずのうちに影響されているのです。

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