「人を幸せにするのは何か」と聞かれ、「価値観による」と答えたあなたは、甘い。ハーバード大学の教授が80年近く研究から導き出した結論は、ズバリ「良い人間関係」だ。しかもそれは幸福感にとどまらず、体や脳の健康にも大いに影響を与えるという。それなら友人を増やせばよいのか。ところが一筋縄ではいかない。研究を詳しくみていこう――。

※本稿は、村山洋史『「つながり」と健康格差』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

孤独感のある中年は健康問題を抱える

TEDトークをご存じの方も多いと思います。Technology Entertainment DesignというNPOが主催していて、学術、エンターテインメント、デザインなど様々な分野の人たちが行う魅力的なプレゼンテーションのことです。YouTubeなどで視聴できます。

写真=iStock.com/maroke

このTEDトークの中で、これまでに2000万回以上(2018年3月末時点)再生された有名なトークがあります。ハーバード大学教授のロバート・ウォールディンガーによるもので、「What makes a good life? Lessons from the Longest Study on Happiness(人生を幸せにするのは何? 最も長期にわたる幸福の研究から)」というタイトルです。このトークは、1938年から80年近く続いているハーバード成人発達研究の成果に基づいています。

この研究から導き出されたのは、良い人生を決めるのは、お金でも名声でもありませんでした。「良い人間関係は人を健康にし、幸せにする」──これが研究者らの導いた答えだったのです。そして、次の3つの教訓を提示しています。

(1)社会的なつながりは有益であり、一方で孤独は命取りになる

家族や友人とのつながりの多い人は、少ない人に比べて幸せを感じやすく、健康で、長生きでした。かたや、孤独を感じている人は、中年期から健康問題を抱え、認知機能も低下しやすく、長生きできなかったそうです。彼は、トークの中で、「孤独は毒」と表現しています。

(2)大切なのはつながりの数や有無ではなく、その質である

50歳でその時の人間関係に満足している人は、80歳になっても健康的だったそうです。人間関係がぎくしゃくしている中で暮らしていると、それだけで健康に悪い影響を与えます。結婚生活を例にとると、ケンカの絶えない夫婦関係だと、離婚することよりも不健康のリスクが高くなっていました。

良い人間関係を持っていることは、加齢や病気による様々な影響を和らげてくれます。たとえ高齢になって体の痛みを持っていたとしても、良好なつながりを持っている人は毎日を幸せに感じています。

(3)良い関係性は体だけではなく脳も守ってくれる

他者と親密な関係性を持っている人は、そうでない人に比べて、80歳になっても記憶力が低下しにくいという結果でした。また、相手を信頼できていることも重要です。ケンカの絶えないカップルであっても、互いに信頼し合っていれば、ケンカといういざこざが記憶力に与えるネガティブな影響を弱めてくれます。

このTEDトークは、社会的なつながりが、健康や長寿に加え、幸福感や脳(認知機能)にも良い影響を持っていることを示しています。