トランプ勝利の鍵は「明快で動的なスローガン」

内部・外部環境分析において次に重要となるのは、自らの陣営と敵の陣営における「候補者分析」である。商業マーケティングの実務でも多用されるSWOT分析が政治マーケティングでも必須のツールとなる。私が行ったトランプとクリントンの比較分析を図で示す。

このうち、政治マーケティングで特に重要なものは、候補者の“選挙スローガン”だ。

トランプの選挙スローガンは、日本でも既にお馴染みの“Make America Great Again”。政治マーケティングにおいては、候補者のポジショニングをシンプルかつ明快に言語化することが重要となる。

トランプのスローガンは、クリントンのスローガン“Stronger Together”と比較すると、動詞や目的語が挿入され、行動を想起させる動的なものとなっている。強いリーダーシップのイメージを抱かせるとともに、トランプ陣営のターゲット層である白人労働者層などに対して、旧き良き時代を取り戻すイメージを抱かせることを狙っていると考えられる。

また、有権者の愛国心を鼓舞する点も見逃せない。米国における政治マーケティングでは、愛国心を高めることができた政治家は、支持率も比例して高くなると言われている。ナショナリズムとも揶揄されるトランプの愛国心喚起には、このような背景があった。

“Make America Great Again”は、トランプ政権発足後も引き続きスローガンとしてトランプのミッションやビジョンを構成する。選挙中のスローガンの実現は、政権運営マーケティングにおいて最も重要なポイントだ。オバマ大統領の苦心の跡からも、それがうかがえる。トランプの大統領就任後の動向を占う上でも、このスローガンが大きな鍵となることを強調しておきたい。

田中道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、オランダABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)、東京医科歯科大学医療経営学客員講師、グロービス・マネジメント・スクール講師等を歴任。著書に『ミッションの経営学』など多数。
http://www.rikkyo.ac.jp/sindaigakuin/bizsite/professor/
(写真=ロイター/アフロ)
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