子育てで職場に迷惑をかけることについてSNSを中心に議論が盛り上がっている。なぜ、職場において「子持ち様VS非子持ち様」の対立構造ができるのか。『少子化 女“性”たちの言葉なき主張』を上梓した雇用ジャーナリストの海老原嗣生さんは「『子どもとの時間も自分の時間も昇進も』はどの国でも無理。子持ち様も非子持ち様も、どこかをあきらめどこかを優先しているのだ、ということが周知されて納得できる状況であれば、この対立構造はなくなるはずだ」という――。
若い母親と娘
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです

なぜ「子持ち様VS非子持ち様」という構造ができたか

「子持ち様」とは、子どもの体調不良などを理由に欠勤や早退をせざるを得ない子育て中の社員を揶揄するネットスラングです。職場で迷惑と受け止められかねないケースについて、SNSで賛否両論が繰り広げられました。欠勤や早退をする社員の仕事をカバーする側からの「なんで私たちがあなたの子どものために犠牲にならなくちゃいけないの」といった不満が噴出したのです。

なぜ、日本の職場において「子持ち様VS非子持ち様」という構造ができ上がってしまうのでしょうか。

「子持ち様論争」を冷静に見つめるためにはまず、ワーク・ライフ・バランスについての「世界の常識」を押さえておく必要があります。

「育休1年→時短勤務で昇進もしたい」は正気の沙汰ではない

「日本はワーク・ライフ・バランス(以下WLB)が整っていない、欧米が羨ましい」と思う人は多いでしょう。確かに労働者全体で考えればそれは間違いのないところです。ただ、欧米でWLBを充実させて生きている人のほとんどは、「昇進とは縁のない」人たちばかりだということを多くの日本人は知りません。昇進をしたいのであれば、欧米でも(いや欧米だからこそ)バリバリ働き続ける必要があります。育休を1年近くとって、その後短時間勤務を続けて、なおかつ昇進をしたい、などという話は、欧州でもアメリカでも「正気の沙汰」とは受け取られないでしょう。

こんな話は少し書籍や記事を読めばすぐわかります。マリッサ・メイヤーという有名な女性経営者が米ヤフーの役員だったころ、育休や育児支援制度を充実させたときにこう言っています。「ただし、昇進したい人は、育休を2カ月以内にとどめること」。

メタ役員だったシェリル・サンドバーグも『リーン・イン』という本の中で仕事と出産の両立は、上司や夫、周囲の人たちの助けで何とかなる部分があるのだから、本当に必要な時以外、安易に出世の機会から尻込みしないで、と仕事優先の姿勢を貫くことを説いています。

ホックシールドという女性の社会学者は、実証調査を基に「昇進した女性は男以上に働いている」と言っています。また著書『タイムバインド』で、子育てを抱える家庭では、家のほうが大変でしんどいから、できる限り「居心地がいい」職場のほうに滞在しようとする「家と職場の立場の逆転現象」が発生していると指摘。自発的に残業やダブルシフト(連続16時間勤務)を希望するワーキングマザーの姿が多々紹介されます。その間、子どもは長時間にわたり保育園に預けたり、親戚やベビーシッターに任せたり、一人で留守番をしているのです。