ユニセフによると、日本は父親のための「育休制度充実度」が先進国の中で1位。しかし取得率は17%と低いままだ。男性の育休取得を阻んでいるものは何か。『少子化 女“性”たちの言葉なき主張』を上梓した雇用ジャーナリストの海老原嗣生さんと神戸大学経済経営研究所准教授の江夏幾多郎さんの対談をお届けしよう――。
積み上げられたブロックに、「年功序列」の文字
写真=iStock.com/Seiya Tabuchi
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日本と世界の“年功序列”の決定的違い

【海老原】最初に、「日本人の常識は欧米の非常識」という話をしておきます。その核心部分は、「長く勤めれば給与が上がる」ことがいかに特殊か、ということです。亡くなってしまわれた小池和男さんという労働経済学者が、日本も欧米も、年功で給与が上がるのは同じだと示されました。

そう、確かに世界どこでもホワイトカラーの平均給与で見れば、年功カーブは存在します。でも、そこには2つの大きな違いが存在します。1つは、欧米は日本に比べて年功カーブが緩いこと。もう1つは日本では正社員全員が同じように年功カーブを描きますが、欧米は一部のエリートと、その他の人たちで給与レンジが大きく異なること。

フランスの階級社会

たとえば、フランスにはグランゼコールというエリート養成校出身のカードルと呼ばれる少数のエリート層がいますが、彼らは20代後半でもう4万300ユーロ(1ユーロ150円換算で約615万円)で、50代後半だと7万7000ユーロ(同1150万円)にもなります。一方、普通の大学を出た中間的職務層と呼ばれる人たちは、20代後半で3万ユーロ(同450万円)、50代でも4万1000ユーロ(615万円)。

【図表】欧州の給与体系(フランス)
※図表=海老原氏作成

ちなみに、フランスなどの西欧はどんな職業に就くにも「資格」が必要です。パン屋さんや八百屋さんも、その資格を持つことが前提となります。資格を取るには、それに相当する学歴と職業訓練が必須です。こうして資格を取って働く「資格ワーカー」と言われる人たちは、若年時2万5000ユーロ(375万円)、50代後半でも2万8000ユーロ(420万円)に留まります。それぞれが決められた職分で、それに相応な給与レンジに留まるという、まさに、階級社会ですね。ワーカー層が、大学入り直しや資格取得をせず、単に昇進を重ねて、中間的職務やカードルになる、ということなどまずありません。