※本稿は、西口一希『マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわからない人へ』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
街の小さな和菓子屋さんで見かける「最中」
ある地方の老舗和菓子屋さんで、非常においしい最中をつくって売っていたとします。でも、その店の屋号も外観も、最中の見た目もパッケージも普通です。名前も単に「最中」だけ。街の小さな和菓子屋さんでも、よくこういった商品を見かけますよね。
ただ、この店の最中の味は抜群です。自然素材だけを使った餡にも、香ばしい皮にもこだわりがあります。地元では価値の再評価がされていて、「あそこの最中はすごくおいしいよね」といわれていますが、その街の人しか知りません。
これはブランディングに失敗している例といえます。「おいしい」という便益はあっても、名前がなくて覚えられないために広がっていないのです。
そのようななか、最中の製造法を学びに来た人がいました。最中はとてもおいしいのにほかの地域や業界以外では知られていないことを残念に思い、その人はブランディングによってもっと売りだそうとします。
顧客の記憶に残るためのブランディング
では、どうするのか? 街の住民以外から覚えてもらうためには、やはり名前が必要です。そこで最中に「幻の行列最中」という名前を付けて、ロゴをつくります。商品パッケージも特徴的なものにします。「行列」というからには、大勢の人が最中を求めて駆け寄ってきているイラストなどを入れるといいかもしれません。
それを全国各地に届けるためにはどうしたらいいでしょうか? 最中は贈り物にも適していますが、やはり地方のお店の店頭販売だけでは不十分なため、インターネット通販でも売ることにします。このように、ブランド名、ロゴ、パッケージデザインなどを覚えやすいものにして独自性をつくり、販売チャネルを拡大する。こうした施策をいくつも実行して、ブランディングをするのです。
実際に食べてみると非常においしいので、「この行列最中、すごくおいしいよ」「行列のイラストのやつね」と全国的に話題になります。「幻の行列最中」という名前が忘れられない要素として多くの人に残るのです。また、インターネット通販という販売手法によって、その価値を大きく広げていくこともできます。ブランディングによって、無名だった商品が広がっていくのです。