「ブランド力が高い」と言われている企業は何が違うのか。マーケターの西口一希さんは「有名企業のプロダクトでも必ずしも売れるわけではない。そもそもプロダクトに具体的な便益と独自性が想起できなければ、顧客にとっての価値はない」という――。

※本稿は、西口一希『マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわからない人へ』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

スターバックスコーヒーのロゴ
写真=picturedesk.com/時事通信フォト
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「ブランド力が高い」とはどういうことか

「多くの人がそのプロダクトを知っている」だけでは、ブランディングがうまくいったとはいえません。どういう便益とどういう独自性があるかということが伝わってはじめて、それに価値を感じる人たちが出てきて「それなら、お金を払って手に入れたい」と思ってもらえるわけです。ですから、ブランド力が高い状態というのは、そのブランドによって、最初からある一定の価値を感じてもらえるということです。

たとえば、「トヨタのレクサスから出た新シリーズ」といわれたら、レクサスという名前が、ある程度の価値を持った車を期待させてくれます。これはとくに高級ブランドに限った話ではなく、一般的なブランドでも同様です。「マクドナルドから新しくホットドッグを発売します」といわれたら、いつものハンバーガーとは違うけれど、ある程度の価値を期待する人が多いのではないでしょうか。なぜならマクドナルドに対しては、すでに一定の価値ができあがっているからです。それが、ブランド力が高いという状態です。

ただし、有名企業のプロダクトだからといって必ず売れるわけではありません。知名度や認知度のある会社は、新しい提案をしたらお客さまに注目してもらえる可能性は高くなりますが、そもそもプロダクトに具体的な便益と独自性が想起できなければ、お客さまにとっての価値はありません。

Appleが洗剤を出しても購買には結び付かない

たとえば、Appleが自動車をつくって売りだしたとします。Apple社製の車って、ちょっとよさそうですよね。これは売れるかもしれません。では、Appleが衣料用洗剤を出したら、どうでしょうか。それはどんな洗剤なのか、なぜAppleが洗剤を出すのか、まったくわかりませんよね。

車であればiPhoneの延長線上で考えて、なんとなく便益や独自性があるかもしれないですが、洗剤とApple社の既存製品はまったくつながらないため、便益や独自性が想像できません。結局、「よくわからない」という話になってしまいます。知名度や認知度があることで新しい提案をしたときに注目してくれる人は多くても、そこに便益と独自性が想起できなければ、やはり購買には結び付かないのです。

このような点では、一般消費者からあまり知られていない中小企業は、最初からお客さまに何かしらのイメージを持っていただくことができません。「あの○○社が出す商品」が通用しないということです。そうであるなら、中小企業はブランディングではなくプロダクトそのものの便益と独自性を際立たせることが何よりも大事だということになります。

逆にいうと、ブランド力があるといわれている企業が出すプロダクトは、便益と独自性がそれほどはっきりしていなくても、それなりに売れてしまうことも多いです。しかし、ブランド名が際立っていない中小企業は、最初からお客さまに期待してもらえませんし、むしろマイナスから入るときもあります。そうした企業が勝ち残っていくためには、プロダクトの便益と独自性を磨き上げる必要があるということです。