待ち時間を快適にすごしてもらえる方法を考えた
スターバックスのコーヒーの特徴は、顧客のオーダーを聞いてから豆を挽き、エスプレッソ方式で抽出して提供するというところです。ただし、そのほうが味はよくなりますが、お客さまを待たせることになります。そして、その時間をただ待たせているだけでは、お客さまは退屈してしまいます。そこでスターバックスは、その待ち時間を快適にすごしてもらえる方法を考えました。
店内を広くして、ソファーなどを置いて落ち着いた空間にするとか、テラス席を設ける、テイクアウト用のカップにお客さまの名前を書いて親しみを表現する、サードプレイスという概念をスタッフに持たせるなど、この空間にいること自体が快適だと感じてもらえるような店づくりを目指したわけです。
何かをただ待つ時間は苦痛になることもありますが、コーヒー豆を挽ひくよい香りも、そうしたストレスをやわらげてくれます。こうしたさまざまな施策の結果として、スターバックスの店舗はお客さまにとって落ち着ける場所になっていきました。コーヒーのおいしさと居心地のよさを楽しむ一連の体験は最初からあったわけではなく、お客さまの価値を求め、時間をかけて磨き上げていったのです。
都合よく切り取っても、ブランディングは成功しない
また、スターバックスはオフィス街を中心に店舗を構え、ビジネスパーソンにホッと落ち着ける場所を提供しています。さらにアメリカではバーンズ&ノーブル、日本では蔦屋書店と提携して書店の中に店舗を出し、多くの店舗では無料Wi-Fiを導入してパソコンやスマホがインターネットにつながりやすいようにしています。
このようにスターバックスはいろいろな施策を行っていくなかで、お客さまにとっての価値が高まる方法を考え抜いた結果、今に行き着いたわけです。つまり、スターバックスが成功した理由は、お客さまの反応を見ながら「何がお客さまにとって価値になり得るか」を考え続けてきたことです。さまざまな変化をしながら、お客さまに対して自分たちがどのような価値を提供することでお金をいただけるかを常に試行錯誤し、継続的な収益を生みだすために、価値を高め続ける努力をしているということでしょう。
スターバックスは今後も進化し続けると思いますが、このような価値づくりの変遷を理解せずに結果として成立しているブランディング部分だけを切り取って、その真似をしても、同じようにうまくはいかないはずです。
それぞれの企業が、自分たちはどんな便益や独自性を提供できるのか、それを価値と感じてくれるお客さまにどう伝えるのかということを考えなければ、ブランディングは成功しないということです。