ポテトチップスの老舗・湖池屋は、10年ほど前まで2年連続で赤字に陥るなど、不振が続いていた。そんな湖池屋をV字回復に導いたのが、2016年にキリンから転じてきた佐藤章社長だ。佐藤社長の著書『湖池屋の流儀 老舗を再生させたブランディング戦略』(中央公論新社)から、一部を紹介する――。
湖池屋の佐藤章社長
写真提供=湖池屋
湖池屋の佐藤章社長

安売り競争に巻き込まれ行き詰った「ポテチの老舗」

当時、湖池屋は、営業で苦戦していました。ライバル社との安売り合戦に突入した結果、2012年、13年と2年連続で赤字に陥っていたのです。

知らない方も多いと思いますが、湖池屋は、日本で初めてポテトチップスを量産化したパイオニアです。それがポテトチップスでは後発のライバル社との安売り競争で疲弊している。これまでも難しい局面はあり、そのたびに新しい取り組みや修正をして乗り越えてきたわけですが、私が入社する時期には、まさに3回目の危機がきていたわけです。

ただ、いろいろと調べてみると、赤字になったのは、この2年間だけで、ずっと赤字が続いていたというわけではなく、やり方次第では、V字回復も可能なのではないかと思えました。

安売りは価格勝負ですから、商品自体にファンがついて売れているというわけではない。中身より値段、味は二の次というのが実情で、そこは逆に手の打ちようがあると見ていました。

というのも、私は、安ければ買うというお客様ではなく、世代を超えたファンをつくることが大切だと確信していたからです。

低価格で勝負するのではなく、味と商品のクオリティをあげていけば、わかるお客様はついてきてくれる。応えていただけるお客様は必ずいらっしゃると思っていました。そのためには、根本的に構造を変えなきゃダメだ、まずはそこから取り組もうと思いました。

V字回復のヒントになった創業者の肉声

ポテトチップスのパイオニアである「湖池屋らしさ」とは何か。

その答えは、創業者である小池和夫の知見にあるのではないか、と私は考えました。

「ドメイン」になりそうなものを再認識した上で、いまの時代に適応するにはどうすればいいか。長い間培われてきた「伝統」を「革新」に変えることをめざすこと。それをまず最初に思ったのです。

原点である一番の大元に立ち返らないと未来は見えない、と考えたのです。

そんなことをつらつらと考えていたある日、創業者・小池和夫の肉声音源を見つけました。

湖池屋の創業は1953年。創業者の小池和夫が腐心して日本ならではのポテトチップス「湖池屋ポテトチップス のり塩」を発売したのが1962年。その5年後にはポテトチップスの量産化に成功、その地位を不動のものとしていきます。半世紀以上も前の話です。