高くても売れる商品を目指す
創業者・小池和夫は、その草創期を振り返った音源の中で、このように語っていました。
「業界で最高のものをつくれ。高くても買ってもらえる品質をめざせ」
その後、こんな言葉も残しています。
「ポテトチップスは料理に近く、その延長のようなもの。湖池屋は、昔から、料理をつくるような感覚でポテトチップスをつくってきた」
しかも、小池さんがめざしたのは、アメリカのポテトチップスではなかった。あくまでも日本人の味覚に合った日本人が美味しいと感じるポテトチップスをめざしていたのです。
この創業者から与えられたテーマに創作意欲をかきたてられ、私の頭はフル回転で動き出します。もう、アイディアが止めどなく湧きだしてきたのです。
私は、いま一度、湖池屋の原点を見つめ直し、何がドメインで、クリティカル・コア(中核となる打ち手)は何かを徹底的に見直すことを始めます。
模倣すればするほど、隘路にはまっていくというクリティカル・コア。独自路線を築き、しかも、相手が模倣してきたときに、逆に差異を生み、突き放すというストーリーをいかに構築していくか。
「三方よし」という文化
最初はもう、あらゆる角度から湖池屋の未来を考えました。
たとえば、世界戦略。湖池屋が世界に出ていったときの武器は何か。
あるいは、ポテトチップス以外にはどんな商品が可能なのか。
どこまで食領域を拡張していくのか。
健康食としてどう挑むのか。
ドメインはポテトチップスだが、サブはコーンスナックでいいのか。
辛口市場の波にはどこまで乗っていけばいいのか。
主に午後3時半以降に食べられていたスナックを昼からにできないか。
どこまでだったら湖池屋らしいのか。
たとえば、和菓子への挑戦は許されるのか――。
日本という市場があって、四季に富み、豊かな自然があって、豊富な素材があり、進化しつづける加工技術がある。ロジスティックスもあるし、デジタル技術もあって自由にSNSも使える。グローバルをめざすにしても、まず、日本のお客様を大事にすることから始めたほうがいいんじゃないか。
日本人が一番優れているのは、手先が器用といったことよりも、実は心の優しさ、温かさ、思いやりにあるのではないか。長屋文化でみんなでわけ合って食べるとか、武士の情けで恵むとか、あるいは、商売で「三方よし」と言われるような、かかわる人みんなが幸せになるという「和」の文化がある。
「三方よし」とは、もともと江戸時代に近江商人が唱えたもの。企業は利益追求だけでなく、お客様や社会にも利益還元するべきという考え方です。