この数年、クリームや惣菜などをはさんだ「コッペパン」が全国でブームになっている。その元祖は、岩手県内に4店舗を構える「福田パン」だ。ブームを受け、福田パンには県外への出店オファーが多数あったが、3代目の福田潔社長はすべて断っている。なぜ岩手を出ないのか。フリーライターの伏見学さんが聞いた――。
50種類のメニューが並ぶ盛岡のコッペパン専門店
JR盛岡駅から南にクルマを走らせること約20分、物流倉庫が立ち並ぶ県道沿いにこぢんまりとした赤色の屋根が見えてくる。
ここは、コッペパン専門店・福田パンが運営する「矢巾店」。
お昼時の店内に入ると、カウンターには順番待ちの列ができている。客は約50種類に及ぶメニューの中からお気に入りを選んで注文する。
「あんバター3つとエビカツ。それと……」
注文を受けた店員が手際よくパンに具材を挟んで提供する。商品で一杯になった袋を手にぶら下げて、満足げな表情で店を後にする人たち。一番人気の「あんバター」はボリューム満点で176円という安さだ。
「毎日1万個。連休やお盆には2万個を製造していますね」。福田パンの福田潔社長(54)はこう話す。
コッペパンブームの火付け役
福田パンの看板商品である「コッペパン」は、盛岡のソウルフードとして有名だ。数年前には全国でコッペパンブームが巻き起こったが、その火付け役と言われている。現在の年間売上高は6億円前後。福田社長が修行先の東京から盛岡に帰ってきた1997年は3億円に満たなかったため、そこから倍以上に伸びた。
ブームの担い手と聞くと、ガツガツしていて金儲けに貪欲な会社をイメージしてしまうが、社長も店構えも“素朴”という表現がピッタリ。福田社長は会社の規模をこれ以上大きくするつもりもないと断言する。
直営店は4店舗あって、盛岡市内とその隣接エリアに構える。地域外に出店する気は毛頭なく、あくまでも目の届く範囲で運営したいという。正真正銘、地元に根ざしたパン屋である。
福田パンを食べたければ盛岡へ行くしかない。従って、休日には県外から多くの人たちが押し寄せている。ここまで福田パンが愛される理由とは何だろうか。