※本稿は、笹井清範『店は客のためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びる 倉本長治の商人学』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
その紙は、ユニクロ銀座店に張られていた
国内企業の旗艦店ばかりか、海外の一流ブランド、グローバルチェーンがひしめく日本一の商業地、東京・銀座。その世界有数の激戦区において、すべての「ユニクロ」の中でトップランクの売り上げを誇るグローバル旗艦店を取材したときのことだ。
店長十戒――。店長の中から選抜され、在庫調整、陳列や店舗発注権限などかなりの部分で自由裁量権を与えられた「スーパースター店長」の一人、M店長の執務デスク前の壁に貼られていたのがこれだった。柳井の起草による「店長が守るべき最低限の内容」である。
2.店長はサービス精神を発揮し、目の前のお客様のために全力を尽くせ。
3.店長は誰よりも高い基準と目標を持ち、正しい方向で質の高い仕事をしろ。
4.店長は鬼となり、仏となり、部下の成長と将来に責任を持て。
5.店長は自分の仕事に、誰にも負けない自信と異常なまでの熱意を持て。
6.店長は社員の模範になり、部下と本部に対してリーダーシップを取れ。
7.店長は販売計画を考え抜き、差別化と付加価値を売場で生み出せ。
8.店長は経営理念とFRWAY(FAST RETAILING WAY)に賛同し、全員経営を実践しろ。
9.店長は本当に良い服を良い店で販売し、高い収益をあげ社会に貢献しろ。
10.店長は謙虚な心で、自分に期待し、どこでも通用する世界の第一人者になれ。
「ぐうたら店長」を心の底から何度も叱った
この十戒を常に意識し、「当たり前のことを当たり前にやれるのがプロフェッショナル。店長十戒はそのための行動指針です」と語るМ店長。だからこそ、世界一の旗艦店を率い、業績を伸ばし続けてきた。
しかし、そこまでの道のりはけっして一貫した上り調子というわけではなかった。柳井は自著『柳井正の希望を持とう』(朝日新書)で、M店長を「ぐうたら店長で、まったく成績が良くなかった」と評しつつ、「ただ、愛嬌のある男だし、何とかしたいと思い、何度も本社に呼んでは叱った」と述懐している。
それも、「『君、こんなことじゃいかん』なんて程度の甘い叱責ではなく、心の底から怒った。そんなことを何度も繰り返して、そして、2、3年たった頃だろうか。ある時から、がらっと変わって頑張り出し、結果を出すようになった。(中略)『部下を変えることができなかったら、おれは死ぬしかない』くらいの根性で叱ることだ。私はそうやっている」(同書137ページ)
このエピソードにこそ、柳井の社員への思いが顕われている。己に厳しいことで知られる柳井はその分、社員にも己に対する厳しさを求める。だから、本気で叱る――その根底には縁あってともに働く社員への愛情と期待がある。