“チェーンストア病”から脱却できたワケ
それによって日本の小売業は急速に発展し、産業としての地位を確立した。消費者もモノ不足の時代において商品を安く、迅速に入手できるという恩恵にあずかれた。
しかし、「本部が考え、店が従う」という伝統的チェーンストア理論が綻びを見せるようになって久しい。時代は常に変わり続ける。その後訪れたモノ余り時代にあって、もはや画一的な商品の大量供給など必要とされなくなった。
それなのに従来の手法から脱却できず、現場において自ら考え行動する人材の育成を怠った企業の多くがいたずらに肥大化した後、ここではあえてその名を挙げないが、市場からの退場を余儀なくされた。
ユニクロも初期において、そうした“チェーンストア病”に罹った。旺盛な新規出店で増収増益路線を維持したものの、このころから既存店売り上げのマイナスが目立ち始めたのだ。ついに1996年8月期以降、3期連続となる業績の下方修正を迫られることになる。
市場に「ユニクロ限界説」が囁かれるようになる少し前のこと、柳井がこれまでの手法を大きく変えるきっかけとなった言葉との出会いがあった。
チェーンを超えた先に「個店経営」がある
1994年、広島証券取引所に上場して間もない頃、かつての勤務先であるイオンの岡田卓也さんと『商業界』誌上で対談したときのことだ。そのとき、倉本長治の唱えた「店は客のためにある」は「店員とともに栄える」と続くことを知る。
これが、柳井が従来のチェーンストア理論と決別するきっかけとなった。柳井は言う。
「業界や業種の境がなくなる時代を迎えた今日、従来のチェーンストア経営を超えた個店経営が必要になります。店は一店舗一店舗、お客様も立地も、背景にある文化も違います。
だから一店舗一店舗の店長と社員が本部と一緒になって、個店ごとに最適の品揃えを実現して、地域のお客様に本当に喜んでいただける商売をしなければなりません。『店員とともに店は栄える』とは、本当にお客様の役に立っているのか、販売員が生き生きと使命感を持って仕事をしているかということです」(『商業界』2016年6月号)
ところで柳井は、2009年に「グローバルワン・全員経営」という理念を掲げている。店長はもちろん、社員全員が経営者と同じ意識と感覚をもって、自分の仕事を実践、まっとうするというものだ。「それこそまさに『店員とともに栄える』ということであり、私たちの挑戦はまだまだ続いていきます」と真意を語る。