「福田家がやっているから福田パン」

あくまでも地元のために――。盛岡以外に出店しないというポリシーからも、これが決して取ってつけたような言葉ではないことがわかるだろう。なぜ福田パンは地域外に出ないのか。

「頭のいい社長だとどんどん会社を大きくできるんでしょうけど、私くらいのレベルだと今のままで十分。会社それぞれにあった規模がある気がしていて、大きくなった方が安全な会社もあれば、こぢんまりと経営した方が安全な会社もある。うちはこのくらいが安全だと思います」

福田社長はそう謙遜するが、突っ込んで話を聞いていくと本心も見えてきた。

「(フランチャイズなどで)規模を広げると会社が人手に渡りますから。自分たちだけでは運営できなくなり、どこかの支援を頼るしかなくなる。実際、地方の製パンメーカーのほとんどは大企業グループの傘下に入っています。福田家がやっているから福田パンだと思うんですよ。じいさんや親父が切り盛りしていた姿を見て、私も『福田パンってこうなんだ』というイメージを持っています。将来、私の息子もそうした姿を見ることで後を継いでくれると思います。金だけではないです」

祖父の姿を今でも鮮明に覚えている
撮影=プレジデントオンライン編集部
福田家がやっているから福田パン――。祖父の姿を今でも鮮明に覚えている。

全国展開の話は断る、パン作りを学びたい人は断らない

コッペパンブームも相まって、今までに地域外出店や全国展開を打診してきた企業は数知れず。福田社長が一番驚いたのは、関東地方の大手銀行が、資金も用地も準備するから店を出さないかとオファーしてきたことだった。

しかし、どんなに好条件でも福田社長は聞く耳を持たなかった。自分の目の届く範囲、すなわち地元・盛岡でしか店舗を構えない。この信念が揺らぐことはない。

では、長年培ったノウハウや知見は門外不出かというと、そういうわけではない。福田パンの技術などを真剣に学びたいという人に対しては教えることを惜しまない。現に、東京都葛飾区の吉田パン、福岡市の山本パン、大阪府高槻市のゆうきパン(現在は閉店)のオーナーが福田パンで指導を受けて、コッペパン専門店の開業にこぎつけた。

「『パン作りをしたことがないけど、パン屋をやりたい』とやって来たので、『じゃあ、教えてあげるよ』。その程度のことです。うちのやり方だと、1種類のパン作りを覚えればできるから、教えるのは簡単ですね。(教育費やブランド使用料などの)お金は一切いただきませんが、その代わりすべて自己責任でやってくださいと伝えています」

現在も、秋田から毎月福田パンに通って修業を積んでいる開業希望者がいるそうだ。

福田さんの元には全国からパン作りを学びたいと問い合わせが来るという。
撮影=プレジデントオンライン編集部
福田さんの元には全国からパン作りを学びたいと問い合わせが来るという。