いまのお客様からの要望と向き合い、その経験とアイディアをいま向かっている課題へと惜しげもなくつぎ込んでいくこと、それこそがあるべき日本企業の姿だと思ったのです。

湖池屋に注入したかったのもそんな経営でした。

価値のあるポテチを、価値に見合う価格で売る

物量で押しきるようなパワーマーケティングではなく、付加価値を生み出す経営。価値あるものを生み出して、きらっと光る存在になる。そのために明快な商品をつくり出すこと。

それがみんなの感動や喜びを生み出すんだと私は信じています。そうでないと、日本はどこまでいっても、規模では海外にはかなわない、ということになってしまう。

日本には、日本人には、戦うポテンシャルもあるし、知恵もある。自信をもって、誇りをもって自分たちの戦い方を貫くべきなのです。塩梅、良い加減、阿吽あうんの呼吸……、その細やかさ、心配りにこそ勝機はあるし、意義もあると思うのです。

お客様の要望をカスタマイズしてこそ重宝がられるし、その価値に見合う価格をいただける時代がすぐそこに来ているのではないか。

だからこそ、日本人ひとりひとりが経験を積みながら、その付加価値の高い仕事をやり抜いていってほしい。

それが私のものをつくっていく上での理想の姿なのです。

国産じゃがいもへのこだわり

湖池屋に入って最初に気づいたのは、この会社には素晴らしい資産や価値が眠っている、ということでした。

この忘れられている価値を整理し、共感されるコンテクストに並び替えたらいい。お客様が求めている現代のコンテンツをつくればいいんだと思ったわけです。

つまりは創業者の知見である日本産のじゃがいもを使って、天ぷらをイメージした日本人の味覚に合ったポテトチップスをつくること、そこにこそ答えがあると思ったわけです。

価値のあるポテトチップスを、見合う価格で売る。
写真提供=湖池屋
価値のあるポテトチップスを、見合う価格で売る。付加価値を生み出す経営に舵を切った。

創業者・小池和夫は、徹底的に日本発の美味しいものをつくりたいと考えていたのだと思います。

なぜ、日本人が日本で食べるじゃがいもをわざわざ海外から運び入れるのか。日本産のじゃがいもを丁寧につくってお届けする。こっちのほうが旨いに決まっていると創業者は考えた。

じゃがいも前線にしたがって、5月の九州から9月の北海道まで、じゃがいもを追いかけ、加工する。じゃがいもの流通がちょっと薄いときは、米やとうもろこしといった違う素材でカバーする。ポテトチップスが豊富じゃないから、こちらも食べてくださいね、という真っ当な知恵です。

そんなことをいま一度お客様に知っていただくためにも、国産じゃがいもによるポテトチップスをもってして、世の中に問い直したかったのです。