アメリカ大統領選挙で、ドナルド・トランプさんが当選したことは、多くの人にとって驚きだった。特にアメリカのメディアは、最後まで、トランプ候補が本当に大統領選で勝つとは予測していなかったように思う。

政治的な主張や価値観は別として、最初は「泡沫候補」だったトランプさんが、なぜ共和党の指名を受け、当選にまでこぎつけたのか、そのプロセスを分析してみたい。

まずは、認知科学で言うところの、「単純接触効果」がある。人は、どのような理由であれ、その人に関する情報に接触する機会が増えると、好意を持つようになるという効果である。アメリカの心理学者、ロバート・ザイアンスの研究で明らかになったこの効果は、今回のトランプさんの人気を説明する。

「アプレンティス」に出演していたころのトランプ氏。(写真=AFLO)

「メキシコとの間に壁をつくる」とか、「イスラム教徒の入国を禁止する」など、良識派が顔をしかめるような失言のたびに、メディアやソーシャル・ネットワークには、トランプさんの画像、動画などの情報があふれた。その結果、単純接触効果を通して、トランプさんへの好感度も上がっていった。

もともと、トランプさんの全米での知名度が飛躍的に上がったのは、テレビ番組「アプレンティス」がきっかけだと言われている。一般参加者が、トランプさんの「見習い」(アプレンティス)として競い合う。トランプさんが「おまえはクビだ!」と叫ぶ様子が、キャラクターとしてすっかり定着した。