クリントン優勢の予想が覆った米国大統領選。事後分析では「潜在的なトランプ支持者は女性」と判明した。トランプに票を投じた女性の中には、「トランプがいい」わけではなく、「ヒラリーを大統領にするくらいなら」と考える女性たちが多かったという。彼女たちがヒラリーを嫌い、憎むのはなぜなのか?
敗北宣言をするヒラリー・クリントン氏(写真=代表撮影/UPI/アフロ)

「トランプ勝利」、そしてデータは死んだ

「それを『想定外』と呼んだ全ての人の敗北」――日経ビジネスオンライン編集長・池田 信太朗氏は、トランプ米大統領誕生の翌日に印象的なことばを記している。一方まさにその「想定外」にあたる「誰も予想していなかった」という言葉を選挙戦翌朝の社説で絞り出すようにし、微塵も想像しなかった結果を前に呆然としていたのは、ニューヨーク・タイムズだ。

大統領選を前にしてクリントン支持を宣言していた左派紙代表格のニューヨーク・タイムズは、クリントン勝利の確率を83%と予測していた投票日夕方からほんの数時間後、オセロの石がみるみる裏返っていく勢いに激しく動揺しながら「トランプ当確」を報じた。

クリントン優勢やクリントン勝利への確信度が高かったメディアほど、現実の結果にも、読み違った自分たち自身にも衝撃を受け、「自分たちマスコミがすでにエスタブリッシュメントであり、米国民の反感の対象だった」「(クリントンがきっと勝利するだろう、するべきだとの)自分たちの希望を垂れ流した」という反省が生まれた。

共和党の戦略担当者までもが、クリントン勝利と予想していた自らの分析を振り返って「データは今夜、死んだ」との言葉を残している。

潜伏的なトランプ支持者は、女だった

大統領選前、高級紙や3大ネットワーク、CNNなどの報道各社は、「トランプ支持者は教育程度の低い労働者である」と断じていた。だが事後分析によれば、実はマスコミが把握していた以上にトランプ支持者は潜在していた。そして「選挙戦前にはトランプ支持を公表していなかったが、実はトランプに票を投じた」投票者像の中でも特徴的なのは、「家庭の良き妻、良き母」である普通の女たちであり、ヒラリー・ロダム・クリントンが以前宣言した「私はクッキーを家で焼くような女ではない」との言葉をもじって「クッキーを家で焼く」女たちだったと言われている。

もともと、トランプもヒラリーも共に強烈な社会的憎悪を受けた候補者同士だった。ここまで候補者がともに嫌悪され、アンチに蔑みの言葉を投げつけられながら選挙へもつれ込んだ例も珍しいほどだ。そういった意味で、この大統領選は「消極的選択の選挙」と呼ばれた。どっちも嫌だが、どっちがよりマシかで判断する――熱狂的なトランプ支持者ではないがトランプに票を投じた人々の動機とはつまり、「ヒラリーを大統領にするくらいなら、トランプの方がマシ」との考えだ。トランプが得た票のいくばくかは「トランプ票」ではなく「アンチ・ヒラリー票」なのである。