なぜ“泡沫・暴言候補”トランプは大統領選に勝利できたのか? この連載では、「現代マーケティングの父」フィリップ・コトラーの政治マーケティングフレームワークに当てはめながら、トランプの選挙マーケティングについて解説する。今回は大統領選を勝ち抜くために、トランプ陣営が「内部・外部環境分析」としてオバマ大統領及びヒラリー・クリントン大統領候補をどのように分析したかを考える。
写真=ロイター/アフロ

米国の分断を拡大したのはトランプではなくオバマ!?

政治マーケティングにおいて、米国大統領選挙を戦うに当たって最も重要な分析は、「現職大統領の分析」であるとされている。それは、現職大統領に対する評価の高低によって次期大統領選挙の戦略が大きく異なってくるからだ。

米国大統領の任期が2期までと制定された1951年以降、大統領を2期務めた政党から次期大統領が選ばれたのは1例のみ(高い人気を誇示したレーガン大統領の後を受けての第41代のジョージ・ブッシュ大統領)。同じ政党が3期に亘って大統領を送り込むことは極めて難度が高いとされている。つまりは、ヒラリー・クリントンは当初から難しい戦いを迫られていたわけだ。

オバマ大統領は、“Change”をスローガンとして大統領選挙に当選した。しかし、公約として掲げた「分断された合衆国を一つにまとめる」ことは達成できず、むしろその分断をさらに広げたと評価する向きが多い。ここで重要なのは、トランプが米国の分断を拡大させたと批判される以前に、オバマがその分断を拡大させた張本人であると指摘されている点だ。これは、今回の大統領選挙を見る上で極めて大きなポイントとなる。

オバマ大統領への支持率は、2010年あたりから支持と不支持が拮抗し始め、2013年後半以降は不支持が支持を上回る状況が続いている。特に2014年の支持率は最悪を記録し、それと呼応して中間選挙ではトランプが所属する共和党が上下両院ともに多数を占める結果となった。