台湾統一は遠のき香港人の心は離れた
この惨状が、香港人の心情をより歪めてしまった。経済的にはとりあえず救済されましたが、利益の大半を得たのは親中派の富裕層。超ウルトラ格差社会に陥り、夢を奪われた心理的鬱屈。それを招いた北京政府が、さらに我々の政治的自由まで奪うのか――これが香港市民の怒りの本質です。
今回は、習近平国家主席本人が必ずしも意図したことではなく、その強すぎる力の負の側面が出た感があります。学生の強制排除を提案してきた梁振英らに対し、習近平が「もっとマシな対応策を考えられないのか」と激怒したと報じられました(日経新聞10月14日付)が、それが実態では。初期段階の催涙弾を打ち込んだ選択は中国人にしては珍しく思慮が浅いやり方だと感じます。表現の自由という点で一国二制度を完璧に守ってきたのに、側近が勝手に忖度して、大陸の他の地域なら通用した強硬路線で一気に介入してきた。しかし、予想とは違う反発が出て戸惑っている、というわけです。
その点で興味深いのは、香港人のアイデンティティが「香港人」だとしても本来は漢民族。漢民族が、公然と漢民族に激しく声を挙げて抵抗しているという構図は、かなりエポック・メイキングな出来事だと思います。
普通選挙を変えないことで、一見、北京政府の勝利にも見えますが、大局的観点からは敗北だと見る余地があります。平和的な台湾統一のための道具だった一国二制度について、台湾人の拒否感を煽った可能性があるからです。11月29日の台北市長選、2016年の台湾総統選挙も親中派に不利になるという意味で大きく影響しそうです。香港人の不信感を増幅しただけでなく、台湾統一が遠のいたとすれば、一国二制度の存在意義をみずから揺るがせにしたようにも見えます。
1964年、大阪府生まれ。90年京都大学経済学部卒業。95年弁護士登録。2000年キャストコンサルティング設立。02年弁護士法人キャスト設立。主に中国事業の法務・会計・税務のコンサルティング。北京・香港・上海のほかミャンマー、ベトナムに事業所。著書多数。