眼前には、建物8階に相当する高さ約23メートルの滝が、轟音とともにすさまじい水飛沫を上げていた。担当編集から「滝に打たれませんか」と滝行体験ルポの打診を受けたとき、「どうせなら押し潰されるくらいの瀑布と向き合いたいです!」と粋がったことを後悔したのだった……。
滝壺の水温は19.4度、この季節なら心地よさを感じる程度だ。しかし、体感はそれよりもはるかに冷たい。50代半ばになる自分の心臓は持ち堪えられるのだろうか。
今、滝行が静かなブームで「サウナの次にバズる」と言われている。本来は密教や修験道、神道の修行方法の一つだが、近年は心身を“ととのえる”として一般人にも人気が高まっている。
担当編集が見つけてきた行場は、神奈川県南足柄市にある「夕日の滝」。金時山の斜面から酒匂川へと注ぐ内川上流、標高約500メートル地点に位置し、スギ、ケヤキ、ナラの林に囲まれている。柔らかい足柄層が長年の浸食で削られ、箱根火山の溶岩層だけが残ったことで、この滝が形成されたとされる。溶岩は凝固しているため、礫れきや小石が落ちることもほとんどなく、比較的安全だという。
滝行に行ってみたら若い女性や外国人まで
集合場所に指定された駐車場に着くと、主に都内ナンバーの高級車がずらりと並んでいた。この日の参加者は20人ほどで、意外と20〜30代の若者が多く、男女比も同じくらい。髪を七色に染め全身にタトゥーを施した若い女性もいれば、外国人の姿まであった。
参加者には道着(空手着)が配られ、プレハブの更衣室でそれぞれ着替える。山蛭除けのスプレーを吹きかけて歩みを始めた。滝の手前にはキャンプ場があり、バーベキューの準備をしながら談笑する家族連れの傍らを、緊張した面持ちの白装束の集団が練行衆のように進む光景は、なかなかにシュールだ。
小川に架かる低い橋を渡り、禊の場に踏み入った。橋の袂に鎮座する見守り地蔵に手を合わせ、木立に踏み入ると、ほどなくして樹間に夕日の滝が現れた。落水の圧で生まれる風を感じながら、しばし茫然と滝を見つめる。
ここで「足柄修験の会」の市川邦雄代表の教示を受ける。白髪交じりの長髪に胸元まで届く長い髭、黒帯を締めたその姿は、滝の精霊と対話してきた修験者さながらだ。
指導員の女性から護摩木とペンが配られた。表面には願い事、裏面には改めたいことを書き込むのだという。私は表に「無病息災」、裏には「感恩報謝」と記した。法螺貝の太い音を合図に太鼓と拍子木が打たれ、般若心経が唱えられる中、祠に祀られた不動明王の前に焚かれた火に参加者が列を作り、護摩木をくべて手を合わせる。
次に、塩と酒で身を清め、滝に向かって柏手を打ち、指導員が「恐み恐み白す……」と唱える祓詞を謹聴する。滝行には神道の流れを汲む「禊」と、仏教の「修行」の2つがあるが、今回体験したのは神道や仏教、道教などが融合した修験道の滝行だ。
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