人生をよくする「三大幸福物質」とは
皆さんも、「人に感謝するのが大切」「ありがとうと言うとよい」といった教えが、自己啓発書に書かれていたり、人生の先輩の経験則として語られたりしていることをご存じでしょう。とはいえ、一方ではそうした知識について、「本当に効果があるのか」といった疑問を、ビジネスパーソンの多くが抱いているのではないでしょうか。
実は、脳科学の目覚ましい進歩によって、「感謝」が脳機能を高め、さまざまな健康効果のほか、人間関係や生産性にも好影響をもたらすことを、実証できるようになりました。
私は精神科医であり、脳科学者でもあるので、感謝の健康効果については、昔から関心がありました。例えば、親切は人から感謝されるので、「親切にしたら、どうなるだろう」と考え、自分なりにさまざまな実験をしてみて、親切には心身ともに「大きな効果がある」ということを実感していました。
ただし、感謝に関するエビデンス(科学的根拠)が実証され、学会での評価も確立されたのは、おそらく直近5年くらいのこと。というのも、私も本で調べたのですが、10年ほど前には、ほとんど研究実績がなかったからです。現在、米国を中心に「ポジティブ心理学」が注目されていますが、その学問領域では、感謝に関する論文も、たくさん発表されるようになりました。
感謝の健康効果が科学的に検証できるようになったのは、「ファンクショナルMRI(fMRI)」の登場も大きいでしょう。従来の脳の断層写真を撮影する検査法「MRI」では、脳の構造を詳しく調べることができましたが、fMRIでは構造に加えて脳の機能活動をほぼリアルタイムで計測できるようになりました。
そうしたエビデンスに基づいて、感謝には、「心の健康」「身体の健康」「仕事の向上」という個人的な効果に加え、「会社・組織の改善」という集団的な効果も得られると、私は提唱しています。人に感謝すると、私が「三大幸福物質」と呼んでいるドーパミン、セロトニン、オキシトシンという脳内物質が全部揃って分泌されて、心や体にプラスに働くことが、脳科学で明らかになってきたからです。
米国の研究によって、「ありがとう」といった感謝の言葉を発した直後から、ドーパミン、セロトニンが脳内で活性化されると考えられるようになりました。米国オレゴン大学のfMRIを活用した研究では、感謝することで、脳の「報酬系」という神経システムの活動が強化され、「利他的行動を取りやすくなる」という結論が導き出されました。報酬系は、お金を稼いだり、好物を食べたり、目標をクリアしたりすると活性化され、ドーパミンが大量に放出され、「嬉しい」「楽しい」「幸せ」といった感情が生じます。つまり、感謝は脳にとって、お金や好物と同じような報酬というわけです。
さらに、利他的行動によって、脳の「扁桃体」という部位の反応性が低下することで、不安感や抑うつ感が和らぎ、リラックス効果も得られたとのこと。これは、セロトニンの働きと考えられます。セロトニンには、集中力を高める作用もあります。
一方で、オキシトシンは、ストレスを解消させたり、リラックスさせたりする心身の癒やし効果が大きい脳内物質で、人間関係を改善する効果もあります。スキンシップやコミュニケーションで増えることが知られていますが、「人に親切にしたり、親切にされたりしたとき」にも、増加することがわかってきました。
ドーパミンは、脳のパフォーマンスを高めてくれる物質なので、感謝脳の状態になると、仕事がはかどります。セロトニンが増えれば、笑顔になり、明るい気持ちになります。オキシトシンが増えれば、人間関係もうまくいくようになります。
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