「いつも上機嫌な人」は何が違うのか。脳科学者の西剛志氏は「独り言や脳内トークを含めた言葉の使い方が違う」という。私たちの脳や気分に影響を与えるという「言葉の力」と、ポジティブに変換する方法を聞いた。

自分の発言や口癖は幸福度や生産性に影響

普段、何気なく口にしている「言葉」。口癖や、無意識によく使う言い回しなどは、誰しも持っているものでしょう。しかし、自分の発する言葉が、知らず知らずのうちに自分の脳や気分のありように大きな影響を与えていることは、あまり知られていません。

私たちが日々扱う「言葉」は、他者に対して発する言葉だけではありません。独り言や、頭の中で思い浮かべた言葉(脳内トーク)も含みます。これらの言葉を意識的に変えることで、物事の捉え方や行動、健康から仕事のパフォーマンスにまで影響を与えることがわかっています(下図参照)。人が言葉を発したとき、脳の中では一体何が起こっているのでしょうか。

たとえば「太陽」という言葉を口にしたとします。すると、頭の中に丸くて明るい、太陽のイメージが浮かんできませんか。これは、言葉を発したときに活性化する左脳の言語野「ブローカ野」のすぐ近くに、聴覚と視覚を統合する「視聴覚ミラーニューロン」があるためです。視聴覚ミラーニューロンは、その名の通り鏡のような神経系細胞で、言葉を聞いただけで瞬時にイメージを映し出す機能を持っています。

また太陽の視覚的イメージだけではなく、じりじりと照りつける熱さまで感じた方もいるかもしれません。これは、頭頂付近にある「体性感覚野」という体感を司る細胞も同時に活性化されるため。このように言葉は、五感に対して大きな影響力を持っていることが、科学的に解明されているのです。

握力測定に関する、私が行った面白い実験があります。握る瞬間に発する言葉によって、結果がどう変化するかを見るというものです。「強い」と「弱い」、それぞれの言葉を口にしながら試してみると、「強い」と言いながら握ったほうが10~15%も高い数値が出た、という結果が報告されています。

こうした働きは、仕事のパフォーマンスにも大きな影響を与えます。英ウォーリック大学の研究では、幸福度が高いと仕事の生産性が10~12%も上昇することがわかっています。また米イリノイ大学の研究では、幸福度が高まると仕事の生産性は31%、創造性は300%も高まるという調査結果が出ました。仕事の愚痴を言いたくなることもあると思いますが、ストレスが軽減してスカッとするのはあくまで一時的な効果。それよりも、否定的な発言がクセになると、ネガティブなイメージが自分の中に蓄積し、長期的には気分を落ち込ませることでしょう。

実は、私たちは話した言葉を含む、生まれてからこれまでの体験を、脳はすべて記憶しているといわれています。子どもの頃によく遊んでいた場所を訪れると、そこで体験した内容がディテールまで蘇ることがあると思いますが、これが「潜在記憶」と呼ばれるものです。普段思い出さない記憶や言葉も、脳から消え去ったわけではありません。私たちの中に存在し続け、影響を及ぼしているのです。

これだけは言わないで! 3つのフリーズワード

「言葉に配慮しよう」といっても、どう気をつけていいのかわからないかもしれません。まずは、次の3つの言葉を避けることから始めてみてください。

【図表】言ってはいけない3つの「フリーズワード」

1つめは「できない」という言葉です。理由は簡単で、「できない」と言った瞬間に、脳が思考を止めてしまうから。「できる可能性」の検討をやめ、できるものもできなくなる、という残念な結果を招きます。

同じような理由で避けるべきなのが「わからない」。これも脳が理解しようとする活動を放棄してしまいます。