──きちんと「意思決定できる」リーダーになるために不可欠なことは何でしょう。
【堀】前回はマネジャーへと「脱皮する意思」が必要だとお話ししました。もうひとつ大事なことは、多様な視点で物事を見て判断する癖をつける、ということです。
経営コンサルタントの例を元にお話ししましょう。経営コンサルタントは、お客さんが置かれている状況を第三者の角度から複眼的に見ます。そうすると、渦中にいるお客さんとはまったく違ったことが見えてきます。
「もしこの見方を認めてくださるなら、皆さんの未来はこのようなストーリーになります。この仕事を成功させるためには、異なる目線を取り入れて、ご自身たちの目線も残し、最終的な戦略を作り上げていった方が成功する確率が高くなるのではないですか」ということをご納得いただけるようにプレゼンします。
例えばその際に、A案なら成功確率が80%、B案なら70%、C案なら60%になるとして、3つの案にはそれぞれ良さと欠点があり、持ち味が違います。コンサルタントが言えるのはここまでで、どれをとればよいかはご自身たちで決めてくださいとお話しします。未来は過去の延長線上にあるわけでもなく、何が起きるかわからないので、状況が変化した時にはC案を選んでおけばよかったということもあり得ます。それがわからないのが人生であり、ビジネスなのだと思います。
リーダーの役割とは何か。それは、複数の案の中から自分たちの進むべき道を誤りなく判断するということです。社員たちや部員たちに進むべき方向をしっかりと見せなくてはなりません。
わかりやすくするために今起きている問題になぞらえると、ロシアのプーチン大統領は未来を見誤ったリーダーの一人といえます。世界中の人々が今起きていることをネットで見ることができるのに、それを想定できていなかった。ロシアの少年兵が降伏して泣いていると、ウクライナの女性が、「どうしたの? この紅茶を飲んでパンを食べて元気出しなさい。私のスマホであなたのお母さんとあなたがお話しできるようにしてあげるからね」と諭している映像が世界中に流れました。その時、ウクライナの人は立派だな、なぜこんなに立派な人々の国にロシアは勝手に武力で攻め込んだのか、という国際世論が一気につくられるわけです。
ロシア国内では、地方で国営テレビしか見られない人々がいて、都市部では海外のネットやニュースを見られる人々がいる。BBCやCNNの国際ニュースと国営テレビの伝えることが大きく異なる場合、もしあなたがリーダーであったなら、どのように情報を整理して、どんなリーダーシップを発揮すればよいと思いますか?
プーチン大統領の場合は、異なる意見を持つ側近やアドバイザーを遠ざけてしまい、周囲にはイエスマンしかいなくなってしまいました。そのために正しい状況判断ができなくなってしまったのでしょう。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、西側諸国を含めさまざまなソースから情報をとり、多様な意見をもつ側近を置いて、複数の視点から物事を判断しているように感じます。リーダーは、複数の視点から物事を見て、どう決断しどのようなリーダーシップを発揮すればよいかを考えることが大切です。ゼレンスキーとプーチン。両者のリーダーシップの違いは、多様なものの見方を元に日々判断できるか否か、この点に尽きるといえます。
私からのメッセージは、リーダーは常日頃から心を開き、多様なものの見方、複眼的な意見を受け入れる度量をもち、それを元に判断することが大事だということです。

