※本稿は、大山顕『マンションポエム東京論』(本の雑誌社)の一部を再編集したものです。
本気では受け止められないマンションポエム
ぼくはよく「マンションポエムは何を表しているのか?」と質問される。このもっともな質問に、しばらく回答できずにいた。そもそも、マンションポエムに意味はあるのだろうか? チラシや中吊り広告で目にしたことがあるはずだが、ほとんどの人はマンションポエムをちゃんと読んでいないだろう。読んだとしても、そこで謳われていることを真に受けたりしないはずだ。
「YAMANOTE OF NOBILITY IN KOMAGOME――この地で新しい暮らしをはじめる方に敬意を表して『山手貴族』と称しました。」(「レ・ジェイド 駒込」日本エスコン/三信住建・2017年築)を見て貴族たらんとする人はいないだろう。
「ここでの暮らしは、どこかニューヨークのそれに似ている。」(「ミッドサザンレジデンス御殿山」三菱地所/双日/東京建物・2007年築)
というコピーを見て「そうかニューヨークみたいなのか、じゃあ住もうか」と思う人はおそらくいない。
あるいは「ここに住むこと。それは、札幌都心のすべてを手中にすること。」(「リビオ中島公園アルファタワー」新日鉄興和不動産・2009年築)、「天王寺・阿倍野エリアを手中に収める暮らし。」(「パークタワーあべのグランエア」三井不動産レジデンシャル・2013年築)などを読んで、街の支配を本気で企む人もいないはずだ。こういった本気にされない言い回しはマンションポエムにいくらでも見られる。
人気の街を手中にする「世界征服系ポエム」
ちなみに「手中に収める」「掌中にする」という表現は多くのマンションポエムで見られるもので、ぼくはこれらを「世界征服系ポエム」と呼んでいる。都心に立地することや交通利便性を大仰な言い回しで表現したものだ。たとえばこういうものがある。
「東京を手中にする六本木に、タワーライフの創造を。」(「マジェスタワー六本木」東急不動産・2006年築)
「現代東京の先進トレンドをも手中におさめる」(「シティハウス蔵前レジデンス」住友不動産・2016年築)
「世界一のターミナルから、あらゆる都市を手中にする。」(「シティタワー新宿」住友不動産・2023年築)
「田無の街を手に入れる。」(「サンクレイドル田無二番館」アーネストワン・2013年築)
「大阪、梅田、この大都市を制するもの」(「ザ・セントラルマークタワー」住友商事/
MID都市開発/大和ハウス工業・2015年築)
「京都都心をわが掌中に。」(「プレミスト京都五条」大和ハウス工業・2024年築)

