【井上】現在のコロナ危機で、多くの企業が業績を下げています。リーマンショックのときよりも深刻といわれる状況のなかで、経営のかじ取りをどのように考えればよいでしょうか。
【宮内】コロナというのは降って湧いた災難ですが、いずれは終わります。私の最も楽観的な見通しとしては、来年早々にワクチンができて、それから世界中に行き渡るのに半年ぐらい。来年の夏頃には、「近々、みんなワクチンが打てそうだ」という状況になるのではないでしょうか。いずれにしても、薬かワクチンができないかぎり、コロナの悪影響が終わることはありません。逆にそれが出てくれば、急速に安心感が広がって、人の動きが復活してくるでしょう。
経営者としては、まずは生き延びることが第一なので、キャッシュフローが大事になってきます。会社が最低あと1年間やっていけるだけの資金を確保することです。先日もとある中小企業の経営者が相談に来て、「思いもかけず売り上げが減り、大赤字になってしまった。リストラしようかと思っているが、どうだろうか」と言う。「あなたの会社は、資金繰りはどれぐらいもちそうですか」と尋ねたところ「1年は十分もつ」というので、「それならリストラはしないほうがいい。資金繰りさえつけば、いくらでも後からリカバリーできる。妙な動きをして、会社を今グチャグチャにしてしまったら、後で復活できなくなる。当面の赤字は辛抱しなさい」とアドバイスしました。
【井上】たしかにそれは個々の企業にとっては合理的な行動と思います。しかし、あらゆる企業がキャッシュを貯め込み始めたら、大変な需要減が起きて大不況になり、かえってバタバタと企業が潰れ出すことになります。経済学でいう「合成の誤謬」(注)が起きかねません。
【宮内】おっしゃる通りです。短期的には需要減が起きかねないわけですが、人と企業があと1年もてば、その後の景気は心配しなくても大丈夫。みんな「やっと終わった!」と喜んで踊り始め、消費も一気に拡大するでしょう。大事なのは、それまで人も企業もしっかりと生き残ることです。1945年に第2次大戦の廃虚から元の姿に帰るのに10年かかりました。廃虚にしたらいけないのです。
【井上】来年の夏というと、ちょうど東京オリンピックの時期ですが、予定通り開催できると思われますか。
【宮内】むずかしいでしょうね。1年後に世の中のムードが変わったとしても、それから準備したのでは間に合いません。オリンピックにはこだわらなくていいのではないでしょうか。今は何よりも命が大事ですから、3密を避けて、人との接触を8割減らすという対策を続ける以外にはない。コロナ対策を続けつつ、そのうえで経済が潰れないように支え、「コロナが過ぎたら元通りになった」という形にしなければなりません。ここは国が責任をもって、サービス産業に対して収入を補填するべきです。今こそ何十年に一度の政府の出番です。
(注)合成の誤謬(ごうせいのごびゅう)
一人ひとりが正しいとされる行動をとったとしても、全員が同じ行動を実行したことで想定と逆に思わぬ悪い結果を招いてしまう事例のこと。ミクロの視点では正しいことでも、それが合成されたマクロの世界では違う結果をもたらすことを指す経済学の用語。


