トランプの関税政策で、株式市場は一時パニック状態に陥った。富が失われ、格差が拡大する間違いだらけの政策はなぜ支持されたのか。背景には、失われた製造業を取り戻したいアメリカ国内の事情がある。西田・安田両氏が、不合理なアメリカとの付き合い方を探る――。
第2回の関税交渉に向けてスコット・ベッセント米財務長官(中央)と握手する赤澤亮正経済再生担当大臣(右)。
第2回の関税交渉に向けてスコット・ベッセント米財務長官(中央)と握手する赤澤亮正経済再生担当大臣(右)。初回の会談ではトランプ大統領とも面会した。

貧しくなっても構わないアメリカ国民の真意

【西田】4月2日のトランプ関税ショック、驚きましたね。その後、市場は少し落ち着きを取り戻したとはいえ、僕もすっかり全資産やられました。もう全滅でしたよ。為替も株も暗号資産もダメになりましたから。安田さんも投資をなさっていそうだから、大変だったんじゃないですか?(※対談は4月上旬に実施しました)

【安田】いや、実は僕は現金比率が高めでして。自分でも経済学者らしくないなと思うのですが(笑)。

【西田】それは意外。

【安田】預貯金だけではインフレに無防備ですし、経済学者としては推奨できる方法ではありませんけど、こういう不安定な局面においては、運用資産が少ないと逆に冷静でいられます。ちなみに、人は利益よりも損失に強く反応することが、行動経済学の世界では知られています。「プロスペクト理論」と言われ、1万円を得したときの喜びより、1万円を失ったときのショックのほうがはるかに大きいんです。

【西田】それ、すごくわかるなあ。証券会社のアプリを立ち上げると、真っ赤な画面に下向きの矢印がいくつも出てくる。もう、その時点でやる気なくなりますから。しかも、今回はマーケットの問題ではなく、政治的な関税政策が引き金になったわけじゃないですか。

【安田】昔は「政治は政治、経済は経済」という棲み分けがもう少しありましたが、今は政治判断一つで為替も株も暗号資産もすべてが激しく動く時代です。特にアメリカのような国が保護主義的な方向に振れると、その波は瞬く間に世界中に及びます。

【西田】しかも日本は、そうしたリスクに弱い構造になっていますよ。内需は伸びないし、実質賃金も上がらないなかで、アメリカ株を中心に資産運用をしている人も多いでしょう。今回みたいなショックで全部が壊れてしまう。

【安田】政府がNISAなど投資環境の整備には熱心であるにもかかわらず、金融教育のほうが日本ではまだまだ遅れているのも問題ですよね。金融市場についての知識がないと、こうした局面で必要以上に慌ててしまう人が多い。

【西田】ええ。で、このトランプ関税をきっかけに、今回は「日米関係ってどうなの?」という話をしてみようか、と。安田さんは経済学者として現状をどう見ていますか。

【安田】まず言えるのは、関税は経済学的に逆進的な政策であることです。低所得層の人ほど生活費に占める輸入品の割合が高くなるので、格差を広げる方向に働きます。ただ、それでもトランプ大統領がプア・ホワイト層から支持されるのは、政策の結果ではなく、そこに込められたメッセージが評価されているからでしょう。経済学的には関税によってアメリカ全体の「富」が減る。しかし、これまでITや金融などに偏っていた「富」が製造業のほうに回ってくるのであれば、たとえアメリカ全体が貧しくなったとしても、自分たちにとってはそのほうがいい、と考える人がそれだけ多いということかもしれません。