今また、「働くこと」が流行っている?
去る6月6日は、『ほぼ日刊イトイ新聞』の15歳のお誕生日だった。お祝いにどら焼きを提げて、同社が開催している「はたらきたい展。」(http://www.1101.com/parco2013/ 渋谷PARCOパート1・6/16まで開催)を訪れた。私は1998年にほぼ日がおぎゃあと生まれた東麻布の鼠穴ビルから数えて4件目になる現在の青山通りのオフィスまで、なんだかんだと理由をつけてすべて訪れたことがある。ある意味、追っかけだ。追っかけているのは糸井さんの「働き方」だ。私は村上春樹の小説よりも村上春樹の「生き方」の方に興味を持ってしまうのだが、「ほぼ日」と糸井さんについても同じような関心の持ち方をしている。
「はたらきたい展。」を取材するにあたり、「ほぼ日刊」創刊から3年間のことを書いた『ほぼ日刊イトイ新聞の本』を読み直してみた。思えば「ほぼ日」は、「働き方」というテーマを内在した媒体であった。功なり名を遂げて大御所としておさまっていた糸井さんが、もうほんとうにすべてを投げ打って始めた「仕事」である。それまでの成功に付随するモヤモヤとしたものをすべてリセットするすごい可能性をインターネットに見た。そしてその可能性を信じて、15年間突っ走ってきた……はずだが、何年かぶりに会った糸井さんは、開口一番「インターネットの会社としてできることには限界があるんですよ。今ははっきりいって頭打ち」と言い放った。むむ、また何か新たな企みの予感……。
その話はいったん脇に置こう。「はたらきたい展。」の来場者ノートへの書き込みを読むと、20代から30代の若い人たちが今、このテーマについて並々ならぬ関心をもっていることがよくわかる。糸井さんが「ほぼ日」を始めた当時、あまりに仕事が面白くなってきた感じをこんなふうに書いていた。
「働くのが流行っている。なんたって、今、一番流行っているのは『働くこと』なんだと思う」
今、これとはまた別の意味で「働くこと」が世の中的に流行っている。より厳密に言うと「働くことについて考えること」が流行っている。昨年『ワーク・シフト』という本を弊社から出したが、とくに若い読者からの反響が大きかった。「怖くなった」「希望を持った」などその内容はさまざまだったが、「どのように働きたいのか」について、実際に働く前から真剣に考えている様子が伝わってきた。糸井さん自身は、小学生のころ「就職する日のことを思って泣いた」ほど、働くことに対して消極的だったらしい(「はたらきたい展。」の“ほぼ日刊イトイ新聞の15年”のコーナーでもエピソードが書いてある)が、とにかく今の若い人は「働くこと」に対して非常に積極的に考えているということが感じられる。だいたいパルコという会場で「働く」をテーマに有料のイベントが成立すること自体かなりすごいことではないか。