インバウンドでオーバーツーリズムが問題となっている京都。人気の和食店は混み合っているが、作家の仲村清司さんは「京都に住む人は意外に洋食や中華料理も好き。大衆食堂には皿盛(さらもり)など、びっくりするような発想の料理もある」という――。

※本稿は仲村清司『日本一ややこしい京都人と沖縄人の腹の内』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

京都ラーメンはコッテリ系というのはマスコミの印象操作

京都は背脂ラーメンや『天下一品』に代表されるような粘度の高いコッテリ系ラーメンやレンゲが立つ泥系スープのラーメン店ばかり紹介されるが、それはマスコミの印象操作である。京都人は『篠田屋』のような淡白で澄んだ清湯系のスープも大好物だ。

京都は大都市のわりに大衆食堂が多い地域で、「うどん そば 丼物一式」といういわゆる「一式」食堂が令和時代のいまも看板を掲げている。昔ながらの鶏がらスープの澄んだ中華そばを食べたいときは「一式」を掲げた食堂に入ればよい。京都ラーメンのもうひとつの伝統の味が楽しめるはずだ。

加えて最近では清湯系の醤油ラーメンを出す専門店も登場し、だしの材料を地鶏と水に限った『らぁ麺 とうひち』は開店当初から行列店となった。

それ以上に話題になったのが、京都駅七条口そばに割烹料理店のような店構えで京雀をアッといわせた『貝だし麺 きた田』である。開店は早朝7時。ワタクシはこの店の前を通過するバスに乗ることが多いのだが、行列はおそるべきことに朝ぼらけから夜明けのスキャット的に始まっていて、店に群がる人々の姿はラーメン激戦区京都のリアルなシーンを見せつけている。

『貝だし麺 きた田』の蛤らぁ麺特製
撮影=プレジデントオンライン編集部
『貝だし麺 きた田』の蛤らぁ麺特製

それもそのはずで『貝だし麺 きた田』はアサリの旨みをベースにした貝白湯に、贅沢にもハマグリとホタテの風味を利かしたあっさり味のスープに平打ち麺がガッチリ絡んでいる。「脂肪肝疑い」と診断された方は治療のために何はなくとも直行すべき店といえる。

三条大橋の大衆食堂が出す「皿盛」とは何の料理か?

ついコーフンしてラーメンの話を長々と続けたが、そうなったのには重要な意味がある。多くの人が誤解している京都人のイメージを正したいからである。

京都はコッテリも好みならアッサリもそれ以上に大好きな「両極端の嗜好」を備えた人々の集団なのである。アンビバレント(相反する気持ちや感情)な風土といいかえてもよろしい。

もっといえば、その理解不足がややこしい「京都人」像を生み出していると断言してもいい。ともかくも、このことを理解していただければ、「皿盛」の存在もなるほどとうなずけよう。

皿盛とは、京都三条大橋の東詰をわたったところにある『篠田屋』という大衆食堂の名物料理である。創業1904(明治37)年。現在4代目のご主人と奥様、おばあちゃまが家族ぐるみで営んでいる店で、こちらも老舗の神様のような外観と内観を維持している。

昭和30年代の食堂を目の当たりにしたければ、この店を訪れるとよい。小規模ながら、京都らしい奥行き、土間、テーブル、小上がり、ずらり並んだ品書きの短冊は当時から変わっておらず、まるで映画のセットのような佇まいだ。日本の大衆的食文化を知る上でも貴重な「古食堂」といっていい。