正しい敬語を身につけるにはどうすればいいのか。作家の下重暁子さんは「テレビのアナウンサーをお手本にしてはいけない。地道に正しい敬語を調べて身につけるしかない」という――。(第1回)

※本稿は、下重暁子『怖い日本語』(ワニブックス【PLUS】新書)の一部を再編集したものです。

会議で説明するビジネスパーソン
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです

いつから「させていただく」は始まったのか

敬語に関連して、「させていただく」という表現があるのですが、これ、実は非常に古くから使われていて、そのたびに「違和感がある」「誤用だ」という議論がありながら、長年使い続けられている言い回しなのだそうです。

放送文化研究所のレポート「放送研究と調査」(2016年9月)も、「させていただく」に言及しており、レポートのタイトルは「“させていただきます”について書かせていただきます」でした。

それによると、「させていただく」は、100年以上前から新聞でも使われており、すでに大正期、数多く記事内に見られるのだそうです。永井荷風は昭和9年に、銀座の喫茶店の店頭の「閉店させていただきます」の張り紙があったことを記していて、それに違和感を感じていたようです。

「させていただく問題」に言及した記事、研究はたいへん多いそうでその説は実にさまざま。「値上げをさせていただきます」は客に迷惑をかけるのだから許容範囲、「値引きさせていただきます」は不適切用法であるとか、そもそも「させていただく」という言い回しは関西弁の影響が入っており、東京山の手には先に広まったが下町には流入が遅く、そのため下町出身の人はこれに違和感を覚える、などなど。