52年前のミュンヘン五輪で日本人女性選手のメダル獲得数は2個。昨年のパリ五輪のそれは18個だった。大躍進しているものの、スポーツライターの酒井政人さんは「近年、女性のスポーツ離れが顕著で、親世代も運動をしない人が多く、子ども世代も運動の部活をする率が低くなっている」という――。
フィールドで躍動する女性選手
写真=iStock.com/kumikomini
※写真はイメージです

部活動の地域移行でスポーツができなくなる?

日本は、2024年のパリ五輪で金メダル20個を含む45個のメダルを獲得した。海外開催の五輪では過去最多という快挙だが、日本のスポーツの将来はむしろ危うい状態にある。なぜなら日本のスポーツ界を支えてきた「土台」が大きく変わりつつあるからだ。

土台とは、中学・高校などの「部活」のことだ。少子化と教員の働き方改革に伴い、スポーツ庁と文化庁が2022年12月に策定したガイドラインに基づき、2023年度から3年間かけて、公立中学校の休日の運動部の部活を段階的に地域移行(地域や民間団体に指導を委ねる)していくと決めた。

顧問の教員がその競技に詳しくないケースもある旧来の部活に対して、地域の民間団体の指導者はその競技に精通しており、質の高い指導を受けやすいと言われる。だが、その一方でさまざまな問題が浮上しているのも事実だ。

例えば、「地域クラブで活動する際の心配事」を聞いた調査(長野県松本市教育委員会)では、「家から活動場所まで送迎できるか」が小学生保護者81.0%、中学生保護者77.7%で最多となった(複数回答、以下同)。

また、「どのくらいの費用(月謝)がかかるか」がそれぞれ50.0%、48.7%で続いた。月謝の許容額(千円単位)は、小中学生の保護者ともに「5000円まで」が最も回答が多く、中学生保護者は平均4518円、小学生保護者の平均は5210円だった。

これまで学校のみで完結していた部活が地域移行することで、送迎や活動費用など家庭の負担が大きくなる。従来ほど部活に参加できない生徒が増えるのは必至だ。競技人口が減れば、全体のレベルは自然と下がる。

もうひとつ、日本のスポーツレベルを低下させかねない現象が起きている。国民のスポーツ実施率が下がっているのだ。特に近年、大人の女性の運動不足が深刻な状況で、“スポーツ離れ”が加速している。大人のスポーツ習慣がなければ、子どもたちも自分もやろうという機運が高まりにくく、スポーツ人口が大幅減少する恐れもある。

30~40代の子育て世代は運動不足

スポーツ庁が1964年から毎年実施している「体力・運動能力調査」(対象:6歳~79歳、握力やシャトルランなどの記録を集計)の最新調査で30~40代の女性の運動不足がより顕著であることがわかった。子育て世代が運動をしなければ、子どもも関心を持たないままということも十分考えられる。

20~40代の女性で「運動をしない」と回答した割合が高く、特に35~39歳は42.5%。半数近くは運動ゼロの毎日なのだ。「週1日以上運動する」とした女性は30代で3割、40代で3~4割にとどまった。

となれば必然的に体力面での低下も大きくなっている。成年(20~64歳)の新体力テストの平成10(1998)年~令和5(2023)年のデータを比べると、女性の35~39歳と45~49歳がこの26年間で24位と低い順位となった(※35~39歳の合計点を98年と23年で比較すると男性は37.1点から37.9点にアップしているが、女性は37.7点から35.1点に大きくダウン)

過去10年の比較では40歳代女性ではほとんどの項目(握力、上体起こし、長座体前屈、反復横とび、急歩 or 20mシャトルラン、立ち幅とび)および合計点が低下傾向を示しているのだ。

スポーツ庁は「働く世代、子育て世代を重点にスポーツ参加を促していく」としているが、簡単ではないだろう。

この調査結果を分析した順天堂大大学院の内藤久士教授(運動生理学)は30~40代女性について「何が影響しているのかはわからないが、子どもの時から運動に苦手意識を持っている世代と考えられる」と指摘している。今後は30~40代のスポーツ頻度はさらに下がると考えていいだろう。なぜなら、近年の10代女子の“スポーツ離れ”も目立っているからだ。