売れる商品にはどんな特徴があるのか。法政大学の越智啓太教授は「ファンの期待を裏切らないことに注力している。それはロングセラー商品の変遷を見るとよくわかる」という――。(第2回)

※本稿は、越智啓太『買い物の科学』(実務教育出版)の一部を再編集したものです。

消費者を手放さないためにブランドがやっていること

ユーザーに選ばれるためには、ブランドのファンになってもらう。その次に重要になってくるのは、彼らにファンでい続けてもらうことです。これを「リテンションマーケティング」といいます。

リテンションマーケティングで重要なのは、ファンの期待を裏切らないようにするということです。いったんファンになると彼らは、商品やその品質だけでなく、そのブランドのパーソナリティやルックス(パッケージデザインやロゴ、キャラクターなど)、ポリシーや行動、ヒストリーなどのすべてに好感を抱くようになってきます。

そのため、ブランドとしてはこれらの要素を維持していくことが重要になってきます。もしそれらを変化させた場合、ファンの期待を裏切ることになる危険性があるからです。

たとえば、このような例があります。アパレルブランドのGapは、伝統的なブランドマークとロゴを使用していました。深い青の正方形に縦長のGAPという文字を配したみなさんおなじみのデザインです。しかし、このデザインは若干古くさいものになってきており、モダンでおしゃれなGap商品とは整合しなくなっていました。

日本の企業には難しい意思決定

そこで、Gapは2010年にブランドマークとロゴの変更を試みました。新しいデザインはヘルベチカという人気のあるフォントに深い青のワンポイントをつけたものでした。このデザインは新鮮でかっこよく、おそらくGapというブランドを知らない(現代)人に心理学的な評価をさせれば、確実に旧デザインよりも評価が高くなると思われます。

しかしながら、この新ロゴは発表と同時にネットで大きな不評を買ってしまいました。Gapのファンの多くは、旧デザインのマークとロゴのGAPが好きだったのであり、新デザインにしたことは彼らに対する裏切りだと認知されたのです。

これに対するGapの反応はきわめて早いものでした。なんと、わずか8日間でロゴをもとに戻したのです(これは日本の企業には難しい意思決定だと思います)。

Gapフラッグシップ銀座(東京都中央区銀座)
Gapフラッグシップ銀座(東京都中央区銀座)(写真=Kakidai/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons