「看板に年2億円」はコスパがいい

【澤円】きぬた歯科ほどの看板広告を出すには、相当な費用がかかると思います。個人で開業されている医院としては、類を見ない額だと推察しますが、どのくらいのコストをかけているのでしょうか?

【きぬた泰和】看板広告だけで年間約2億円をかけています。とはいえ、それらはすべてきぬた歯科のビジネスに帰結していますから、費用対効果は優れていると見ています。確かに、質・量ともにクレイジーな状態ではありますが……冷静な判断のうえでのコストといえます。

【澤円】なるほど。いまクレイジーと述べられましたが、これは実は起業家界隈でよくいわれる言葉なんです。例えば、エンジェル投資家が投資をやめる判断をするとき、その判断基準として、People Who Are Crazy Enough To Think They Can Change The World.(世界を変えられると思わせるほどクレイジーであるか)というフレーズもあるほどです。

【きぬた泰和】それは知りませんでした。確かにクレイジーになると、常識的な思考以上の結果が出ることがあり、その意味でのクレイジーさが必要です。常識を打ち破った先にこそ可能性があり、それは誰も体験していない領域ですから、それを見たいという思いがわたしにもありました。

実際にクレイジーに行動したことで、大きな結果も出ました。わたしはいま58歳ですが、開業医の収入のピークは49歳というデータがあります。クレイジーになれば、年齢すらも凌駕して活躍できるといえるかもしれません。

大量の看板は「一つの常識」を疑った結果

【澤円】これを読んでいる読者のなかには、きぬた先生の手法を、いわゆる「逆張り」と見る人もいると思います。マーケティングにおいて、そうした戦略も意識されていましたか?

【きぬた泰和】これについては、結果的に逆張りになっただけです。最初から逆張りで、人と反対のことをしようと意図していたのではなく、ただ一つひとつの常識を疑っていった結果だということです。

「インターネット広告で本当に患者さんがくるようになるのか?」と疑うこともそうでしょう。あるいは、一般的には、多店舗展開をする医院が成功しているようなイメージがあります。しかし、「労働集約型産業で多店舗展開をしても、ランニングコストがかかるだけではないか?」と、わたしはずっと疑っていました。

そのように、どんなものごとも一つひとつ疑い、きちんと考えていくと、世の中には常識とされているものごとに、実は異なる面があることがかなり多いと気づかされます。そうした自分の思考だけを頼りにして、実行していった結果が、「逆張り」のように見えてしまうのでしょう。

常識を疑うことで、間違いや失敗をすることもあります。でも、致命的なことでなければ、いくら失敗してもいいと思うのです。それよりも、つねに「それは本当だろうか?」と考え、恐れることなく行動し続けることが重要です。そして、それは誰でも、その気にさえなればできることだと信じています。

(構成=岩川悟(合同会社スリップストリーム) 文=辻本圭介)
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