「看板の置き方」のインパクトにもこだわる

【澤円】きぬた歯科の看板は、場所によって同じものが立て続けに並んでいることもあります。これもやはりインパクトを強める戦略と考えていいですか?

【きぬた泰和】顔の「うさん臭さ」に加えて、視覚的にも意外性を持たせたかったのです。見た人が「なにこれ?」「どうして同じものが並んでいるの?」という、いわば「数のうさん臭さ」ですね。その異様な光景が、顔の「うさん臭さ」と相まって、脳内に焼き付く効果を狙っています。

看板広告に関して興味深いエピソードがあります。実は、ある大手飲料メーカーは、十数年にわたり都内に多くの看板広告を置いていました。でも、2年ほど前にすべて撤去してしまったのです。はたして、その企業を即答できる人がいるでしょうか?

実際は、思い出そうとしてもなかなか出てきませんよね。わたしの推察ですが、なぜ思い出せないのかというと、その看板はおそらく、地図上で考えた位置にただバランスよく割り当てて設置されただけだからです。つまり、「置き方」にインパクトがないのです。

もっというと、それはその会社にお勤めの方が、与えられた仕事としてやっただけだからだと見ています。つまり、自分のお金を出すわけではないから、そのような熱のない置き方になってしまうわけです。

だから、十数年も看板を立てていたのに、なくなっても誰もわからないという現象が起こるのです。一方で、わたしは身銭を切って立てているので、置き方も真剣に考えた結果、「異様」なかたちになっているのです。

看板はどんどんマネしてもらいたい

【澤円】与えられた仕事としてやるのと自腹でやるのとでは、要するに「熱量」が違うということですね。最近では、きぬた歯科に酷似した看板広告もよく見かけますが、これについてはいかがですか?

【きぬた泰和】後追いが出てくることも当初から想定していました。ですから、きぬた歯科の認知がまだ十分でなかったときは、取材などでも、「看板なんて効果ありませんよ」「ロマンでやっているだけですから」とはぐらかしていました。

ただし、それは嘘なんです。2年前からは、「かなりの効果があります」と真実をいうことにしました(笑)。その理由は、顔看板をはじめてから約10年が経ち、十分に認知されたからです。そこで、看板を出す以上の追い風をつくろうと考えました。その結果、真似をする歯科医が続々と出現し、きぬた歯科の引き立て役になってくれています。

その証拠に、2024年の決算は、開業以来最高を記録しています。そこで、新規の患者さんに「どの場所の看板を見て来ましたか?」と聞くと、別の医院の看板をいわれることが結構あります。つまり、違う医院の看板を見ても、脳内できぬた歯科の看板に変換されているというわけです。

【澤円】それはすごい! 医師の顔写真にインプラントと書いてあれば、すべてきぬた先生に見えてしまうわけですか。

【きぬた泰和】ですから、看板広告の数は以前のペースで増やしていません。それでも、真似をしてくれる看板が、結果的にきぬた歯科を宣伝してくれています。ぜひもっと真似してもらいたいと思っているところです(笑)。

ただし、その状態になるまでは、莫大なお金もかかりましたし、先行者としてやり続けてきたからだと考えています。どんなことでもそうですが、なにかを成すために大切なのは、「やり切る」ことなのです。中途半端に取り組むのではなく、やり切る覚悟を決めること。きぬた歯科の看板広告戦略を支えたのは、やはり「熱量」だと思っています。