マーケティングは完全な素人だった

【澤円】歯科医が本業ながらも、マーケティングセンスが抜群なわけですが、その知識や方法は独学で身につけられたのですか?

【きぬた泰和】もともとマーケティングについては完全な素人です。ですから、主にアメリカのマーケッターの本を読んだり、実際に試行錯誤して出稿したりしながら、広告の種類によってアプローチがまったく違うことを肌身で覚えていったまでです。

例えば、「目を二重にしたい」という人がいると、その人は明確な意思を持って検索するわけですから、そこに向けるのがインターネットのターゲティング広告になります。一方で、看板広告や新聞広告は、それを見たときになんとなく「二重にしてみようかな」と思わせて、潜在的な顧客を形成していきます。

そうして実際に試しているうちに、インプラントという商材においては、ターゲティング広告では広がりがないと実感しました。最初からインプラントを意識している人は多くありませんから、マーケティングとして、潜在的顧客を掴むほうが圧倒的に広がりはあります。

そこで、意識なんてしていなかったのに、少しずつ背中を押されるような、記憶に残る広告が必要だったというわけです。

院長自らが顔を出すもう一つの理由

【澤円】著書で印象的だったのですが、「人は知らないものにお金を使わない」と書かれていますね。あるモノやサービスを「知っている状態」を、つくってあげるということですね。

澤円さん
写真=石塚雅人
澤円さん

【きぬた泰和】そのためには、とにもかくにもアピールが必要です。基本的に、人は知らないものにお金を使わないわけですから、まず知ってもらうことが重要なのです。だからこそ、「異様さ」や「うさん臭さ」というインパクトが欠かせなかった。

顔看板の特徴といえますが、人間は視線をつねに感じている生き物です。例えば、駐車場や横断歩道の前で、運転席に座って待っているとき、目の前を通る人たちの様子を目で追っていると、かなりの割合でこちらを見返すことがありませんか?

要するに、彼ら彼女らは誰かの視線をなんとなく感じてふと見返すわけで、それほど視線の力は強力です。ましてや、サービスを提供する本人が視線を送っているわけですから、記憶への刷り込みはより強烈です。

加えて、顔(素性)を出すということは、責任を持つことにもつながっています。だからこそ、わたしはいつも「望むものを得たいなら顔を出せ」といっています。