羨ましがるなら、丸ごとその人になるしかない

平均回帰【訳注:平均とかけ離れた事象が起こったあとに、かなりの確率で平均に近い事象が起こること】は、歴史上、何度も繰り返し起こっており、経済、市場、国、企業、キャリアなど、あらゆるものを大きく特徴づけている。

平均回帰が起こるのは、ある人をトップに押し上げる性格特性が、同時にその人を崖っぷちに追い込む確率を高めるからだ。

このことは、国、とりわけ帝国についてもいえる。さらなる土地を手に入れて勢力を拡大しようとする国が、「よし、もう充分だ。今あるものに感謝し、これ以上他国を侵略するのはやめよう」と言えるような人によって統治されていることは、まずないだろう。彼らは行き詰まるまで進みつづける。小説家のシュテファン・ツヴァイクはこう述べている。

「征服者が征服に飽き飽きした例は、歴史を見てもない」

望みのものを手に入れたからといって、撤退する征服者などいないということだ。

このトピックで最も重要なのは、誰を尊敬すべきか、特に、誰のようになりたいか、誰の真似をしたいか、きちんと見きわめられるようになることだと思う。エンジェル投資家であり、自身も起業家であるナヴァル・ラヴィカントはかつて次のように書いた。

ある日、ふと気づいたのだ。他人の人生のほんの一部だけを切り取って、羨ましがることはできないと。この人の体格になりたい、あの人のお金が欲しい、あの人の性格になりたいと言うのは不可能なのだと。丸ごとその人になるしかないのだ。

モーガン・ハウセル(著)、伊藤みさと(訳)『SAME AS EVER この不確実な世界で成功する人生戦略の立て方』(三笠書房)
モーガン・ハウセル(著)、伊藤みさと(訳)『SAME AS EVER この不確実な世界で成功する人生戦略の立て方』(三笠書房)

その人の反応、欲望、家族、幸福度、人生観、セルフイメージなど全部ひっくるめて、本当にその人になりたいか? もし、その人と24時間365日、100パーセント入れ替わってもかまわないと思えないなら、嫉妬しても意味がない。

誰かの人生を望むか、望まないか。どちらを選択しても大きな力になる。目標とする人を探すときは、その人になりたいかどうか、自分でわかっていればいい。

「あらゆる前提を疑わなければならない。さもなくば、当初は正しい主義だったものが、永遠に独りよがりな思い込みになってしまう」とジョン・ボイドは言った。

これこそ、よくも悪くも、常に思い出される哲学だ。

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