※本稿は、平松類『老いた親はなぜ部屋を片付けないのか』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。
医療・介護の現場で起きている男女トラブル
親を施設に入れれば一安心、というわけではありません。思いもよらない問題が持ち上がることもあります。例えば、高齢になったら性的な興味などないだろう、と勝手に思っていないでしょうか。
老人福祉施設において、男性の29%に恋愛や性に関するトラブルが起きているという調査があります(※)。やはり男性はいくつになってもそういう問題があるのか、と思いきや、女性も、22%が恋愛や性のトラブルを経験しているという事実があります。具体的に、どういうトラブルがあるのでしょうか。
※熊本悦明ほか 老人福祉施設における“性” 高齢者のケアと行動科学1997;4:3-16
1つはセクハラ(セクシャル・ハラスメント)の問題です。医療現場でも、高齢の男性患者さんが女性看護師のお尻を触るなどのセクハラをすることが問題となっています。私はこれまで多くの医療機関で働いてきましたが、セクハラ問題が生じなかった病院はないと言ってもいいぐらい、頻繁に起きてしまっている問題です。
セクハラ加害者と被害者の認識のズレ
看護や介護の現場では、スタッフが仕事のために患者さんや施設利用者と直接触れ合います。そのため、施設利用者や患者さんがスタッフに性的な関心を持ってしまうと、セクハラに発展しやすいのです。
セクハラをする側からすると「コミュニケーションのつもり」「単なるあいさつ代わり」「このぐらい問題ないだろう」と軽く考えがちです。一方、セクハラをされた側からすると「あの人はトラブルを起こすから、できれば看護(介護)を避けたい」という気持ちになります。
「昭和の頃はそのぐらい普通だった」と言われる方もいますが、トラブルが起きた場合、それは許される行為ではないということを、ご家族からも言っておく必要があります。
また、恋愛感情のもつれということもあります。施設の入居者同士が恋愛関係になる、または一方的に相手を好きになる、ということからトラブルに発展するケースです。
特に、夫や妻に先立たれている人の場合は、「前はダンナがいたからそういうことはしてはいけないと思っていた。でももう他界したし……」という心境の変化から、入居者に恋愛感情を抱くことがあります。さらに、認知機能の衰えがあると前頭葉の機能が低下して、行動が自制できなくなってしまうという問題もあります。