「おひとりさま」で老後を迎えたとき、直面する問題は何か。日本総合研究所のシニアスペシャリスト、沢村香苗さんは「配偶者や子どもなどの“身元保証人”がいない高齢者(=老後ひとり難民)が増えている。ひとりで平気と思っても、頼れる人がいないと想像以上に厳しい現実が待っている」という――。(第1回)

※本稿は、沢村香苗『老後ひとり難民』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

孤独に食べる年配の日本人女性
写真=iStock.com/Hanafujikan
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高齢者の「身元保証人」は、手続きや支払いに関与するだけではない

「老後ひとり難民」が、いずれ直面せざるをえないのが「身元保証」の問題です。

高齢期は、心身機能の低下にともなって、入院や転居、施設入所など「居場所の移動」が避けられない場面が多くあります。そして、このような場面では、一般に「身元保証人」が求められます。高齢者の身元保証人が、大きな問題として浮上しやすいのはこのためです。

実は、ここからご説明していく身元保証には、法的な裏づけや明確な定義がありません。「保証人」と聞くと、一般には「支払いがとどこおったときに代わりに払う義務を負う人」といったイメージがあるかもしれませんが、高齢者が身元保証を求められる場面では、保証人に対する期待は必ずしも金銭の支払いに限られておらず、その中身は多様です。この曖昧さが、問題をより複雑にしているといえます。

高齢期に身元保証人が求められる主な場面は、入院するときと、介護施設や新しい賃貸住宅などに移るときです。

身元保証人がいないと、金銭面での未払いリスクに直面しますし、入院先では意思疎通ができなくなった場合に治療計画が決められなかったり、死後の手続きができなくなったりします。身体が不自由になったときに、身のまわりの世話や退院時の手続きができないリスクもあります。

「老後ひとり」の本当の問題は、寄り添ってくれる人がいないこと

従来「家族がやってきたこと」を一体的に引き受けるという意味で、「身元保証人=キーパーソン」と考えたほうがいいでしょう。

キーパーソンとは、医療や介護等の現場で「家族のなかで、必ず連絡が取れて対応できる人」の意味で使われてきた言葉です。

医療機関への入院や介護施設への入所の際、慣習として、本人以外の身元保証人や身元引受人などの署名を求められることがよくあります。このような場面では、主に配偶者や子どもなどの親族が身元保証人となることが想定されていますが、場合によっては「配偶者は不可」とする条件がつけられていることもあります。このため、身元保証人を頼める親族がほかにいない場合、入院や入所を断られるリスクがあります。

核家族化や未婚化、少子化などの影響を考えれば、今後、身元保証人を頼める人がいない高齢者はさらに増加すると予測されます。

このような危機的状況を受け、「身元保証人を求める慣習はなくすべきだ」という人もいます。しかし、話はそう簡単ではありません。

私は、身元保証人が求められなくなったとしても、問題は一朝一夕には解決しないだろうと思っています。なぜならば、「老後ひとり難民」が直面する困難は「入院や入所のときに身元保証人がいないこと」だけではないからです。

本当の問題は、老後のさまざまな場面で、寄り添い、支えてくれる人がいないことでしょう。