「全身濡れたはずが、直後に服が乾いている」安っぽい展開
ドラマを見る視聴者の目は厳しい。
確かに歴代の朝ドラでは、「木に登る」「海に落ちる」など、“女の子にあり得ない”ようなシーンが多用されてきた。ところが今の視聴者は、繰り返されるパターンに「ありきたり」「新鮮味に欠ける」と感じてしまう。
ご都合主義もNGだ。
「嫌いだったトマトをいきなり美味しいと感じる」「全身濡れたはずが、直後に服が乾いている」などは安っぽい展開と映り、“興ざめ”となり「今後も見たいと思わない」という思いにつながる。
もう一つ要注意なのが倫理観。
初対面なのに主人公の姉(仲里依紗)のネガティブ情報をばらしてしまう学校の先生を登場させるセンスが、「見たくない」と思わせる側面もある。他にも自分はゲームセンターでサボっていながらギャルをクズ呼ばわりするなど、「あり得ない」とがっかりした視聴者がいたようだ。
両ドラマの落差
「おむすび」の不幸は、両朝ドラの並びにあるのかもしれない。
昭和の女性が社会を相手に自分らしく生きるようとした大きな物語の後に、“平成の自分らしさ”を描こうとする現代劇を置いたが、序盤で欠点が目立ってしまった。
やはりSNSで比較する声も辛辣だ。
「虎に翼の後だとおむすびの安っぽさが際立って悲しくなる」
「虎に翼ほど毎朝頭を明瞭にして観なきゃ! てほどの魅力は感じない」
特定の視聴者層で分析すると、こうした声が裏付けられる。
働く女性の中では、非管理職だと「おむすび」第1週の視聴率が、「虎に翼」より高い。ところが企業の役員や管理職の女性たちでは、「虎に翼」だと第1週から最終週にかけて大幅上昇したが、「おむすび」第1週で急落してしまった。
実はこの傾向は、「こだわりがある」「政治に関心あり」という女性たちでも同様だった。
社会の中での女性の位置づけや自分の生き方を考えることの多い女性たちにとって、男社会の法曹界に挑んだ女性の物語は心に刺さった人が少なくない。ところが社会や制度とは限らない“自分探し”に重点をおく物語には食指が動かなかったようだ。
逆に“自分探し”が切実な若者や、社会や制度を意識することの少ない人々には、「おむすび」が等身大の物語として心に響くのかもしれない。
いわば朝ドラ史上稀なギャップが、両ドラマの視聴率や評価につながった。
法律を軸に社会問題に真正面から向き合うと同時に、弱い立場の人々への配慮も忘れなかった「虎に翼」は、これまでにない朝ドラとして新たな視聴者を獲得した。
ところが普通の人の普通のお話から入った「おむすび」は、新たな視聴者を含め多くの人々に逃げられ始めている。
これをどう食い止めるのか。
まだ序盤なので、ドラマとして優劣は簡単につけられるものではない。それでも脱落した視聴者を、「おむすび」はどう取り戻すのか。
2週目以降でどんな新境地が飛び出すのか。主人公の姉(仲里依紗)登場でどんな新展開が出てくるのか。第1週の劣勢を挽回するお手並みを拝見したいものだ。