「ブラック企業は避けるべき」は共通認識
「ブラック企業」という言葉が生まれて二十余年。これまで、新語・流行語大賞のトップ10入りしたり、ブラック企業を題材とした映画が公開されたり、実際にブラック企業の労務トラブルが世間を騒がしたりしたことなどで広く知れ渡ることとなった。
現在はいちいち語義を解説しなくとも、「ブラック企業=労働環境が劣悪で、遵法意識も低く、従業員を使い潰すような悪質企業」との認識が共有されている。
ブラック企業を忌避する意識が広く浸透したことで、とくに人手不足が叫ばれる昨今においては、就職時や転職時に選択肢から疎外されることにより、「労働環境や経営者・管理職の意識を改めないことには、真っ当な人員を確保すること自体が困難になる」との共通認識も生まれた。
同時に、遵法意識を持ち、コンプライアンスにも配慮しなければ、ビジネス上の取引先としても選好されない、という環境にもなりつつあり、段階的にではあるが「ブラック企業のままでは生き永らえることが困難」という状況が以前よりも進展しているように感じられる。
「当たり前」が異常だと気づけるように
労働者側の視点で見ても、従前であれば「社会で働くとはこういうもの」という説明だけで、過重労働や組織内外の理不尽な要求を強制的に納得させられてきた人たちが、「自分が今いる環境は、実は『ブラック企業』なのでは?」「あの時の指導は、実は『パワハラ』だったのでは?」と気づくきっかけが生まれた。
それによって、より良好な労働環境の会社に転職したり、権利主張できるようになったりするなど、前向きな行動の動機となった面もある。
さらには、労働法制面でも大きな変化があった。2019年から順次施行された「働き方改革関連法」においては、労働基準法施行以来の画期的な「残業時間上限規制」や「年次有給休暇取得義務化」などを盛り込むという、これまでの議論の経緯から考えると相当に難度の高い結果が実現した。これにより、働き方改革に取り組むことは経営課題となり、労働環境改善の取り組みを進めることは必須要件となった。