企業による違法行為の被害者は絶えない
ブラック企業は時代遅れのはずなのに、しぶとく生き永らえている。いまだに「知らずに入った会社が実はブラック企業だった!」といった被害報告は絶えることがないのだ。
それは一体なぜなのか。私はその理由は大きく分けて7つあり、それぞれが複雑に絡み合っていると考えている。
本稿では、代表的な「ブラック企業を延命させている元凶」について解説していきたい。
(1)「ブラック企業」という言葉そのもの
「ブラック企業」という言葉の存在自体が、ブラック企業にまつわる諸問題をややこしくし、かつ真にアプローチすべき問題点を見えにくくさせている原因かもしれない。
「ブラック企業」という言葉はあまりにキャッチーであり、便利すぎるのだ。
例えば、労働環境にまつわる諸問題として、賃金や残業代の不払いは「労働基準法違反」だし、パワハラの場合は「侮辱罪」「傷害罪」「名誉毀損罪」、セクハラなら「強制猥褻罪」等が該当するかもしれない。経営者や従業員の行為として「詐欺罪」「収賄罪」「横領罪」「背任罪」等も当てはまるだろう。
訴訟リスクを回避する安全で便利な言葉
これらはれっきとした「違法行為」であり、すぐにでも糺さなければならない重大事案だ。しかし、それらをメディアを通じて公に指摘してしまうと、事実であっても場合によっては「名誉毀損罪」が成立してしまうリスクがある。
しかし「あの会社はブラック企業だ!」と指摘するだけなら、具体的に事実を適示しているわけではなく、かつ「なんとなく怪しい」イメージを読者に植え付けることができるので、実に都合がいいという面がある。
一方で、従業員目線からの「なかなか給料が上がらない」「(残業代は出るが)長時間労働が蔓延している」「ノルマがある」「上司や先輩が厳しい」……といった、特段の違法行為でもなく、単に受け手にとって「個人的に不快な事態」までもが「ブラック企業」とひとまとめに論じられてしまうことがある。
当然ながら「何をブラックだと認識するか」という基準自体も人によってまちまちであり(「違法レベルのハードワークでも、見合う報酬が得られるならOK」VS「違法な時点でそもそもアウト」など)、結果としてその会社は本当に違法なことをやっているのか、もしくはお気持ちで不快なだけなのかが分かりにくくなり、議論をややこしくする元凶となってしまうのだ。