「コスパ最高」という悪魔のささやき

(2)過度に「コスパ」を求める一般消費者/過剰サービスを求めるモンスター客

支払った金額に対して期待以上の成果を得られる状態を指す「コスパ(コストパフォーマンス)がいい」という褒め文句に、われわれ消費者もマスメディアも全力で乗っかってきた。

単なる個人の消費志向という範疇で収まっていればよかったのだが、多くの消費者が「もっと安くしろ!」「もっとお買い得に!」と、企業に対して「安さ」を過剰に求めるようになってしまい、仮に一部企業が商品やサービスの価格を値上げすると、消費者とメディアは声を合わせて「庶民切り捨てだ!」「金儲けに走るな!」と文句を言い、とにかく値下げ圧力を加えてきた。

しかし、そもそも企業は金儲けのために存在するものであるし、企業の儲けは給料としてそこで働く人に還元される。そのような経済の基本を無視するかのような足の引っ張り合いの結果が「失われた30年」であり、「皆平等に貧しくなる」道であったのだ。

視点を企業に移すと、従業員に充分な給料を支払うにも、キッチリ残業代を支払うにも、手厚い福利厚生を実現するにも、必要になるのはお金であり、企業の売上である。しかし、われわれ消費者が「送料無料!」「ワンコイン!」「24時間365日営業!」といったサービスを過剰に求め、コスパばかりを追求する限り、過重労働と不払い残業によって従業員にシワ寄せをしてでも、商品やサービスを安く出そうとするブラック企業は出現し続ける。

そして、そんな企業やサービスをわれわれ消費者が「コスパ最高‼」と選び続ける限り、ブラック労働はなくならないのだ。

「お客様は神様」と勘違いしたクレーマーの罪

過剰労働(ブラック労働)とのつながりでいえば、その背景にはサービスや商品に完璧を求め、無限に要求をエスカレートさせるモンスター客やクレーマーなどの存在もある。

彼らは、「お金を出しているのだから」「お客さまは神様だから」という意識が根強く、初めから自分たちの立場を上と見なしている。しかし、この「お客さまは神様」というフレーズが間違った意味で広まっていることは前回記事で紹介した通りだ。

「笑顔で深々とお辞儀する店員」なんて客は求めてない…接客業を疲弊させる「日本式おもてなし」の罪

高いレベルのサービスを受けて気持ちよくなりたいのであれば、それに見合った金額を支払うべきだが、こうした誤った認識が過剰な水準の接客サービスを従業員に強いることにつながり、結果として、対抗手段をもたない末端の従業員の過剰労働につながってしまうのだ。